厳しい山々で信頼性のおけるギアを生み出し、自分自身もフリーライディングの限界へと挑戦し続け、また脱炭素社会を目指すためにスノーボーダーたちにとって未知の世界へと踏み入れているジェレミー・ジョーンズ。彼のスノーボードに対する考え方、環境や未来へのビジョン、そして山との向き合い方について話しを聞いてみた。
ビッグマウンテンスノーボーディングは僕のパッション
まずはスノーボードとの出会いについて教えて頂けますか?
8歳の頃にスケートボードを始めて、12歳でサーフィンにハマったよ。波に乗る感覚や、コンクリートを滑る感覚の虜になったね。当時はスキーもしていたけど、Thrasher Magazineでスノーボードを目にしたとき、「オレにはこれが必要だ!」って直感したね。人生初のスノーボードは地元のバーモント州にある量販店で手に入れた。クリスマスプレゼントにどうしても欲しくて、サンタクロースの機嫌もよかったのもあって、BurtonのBackhillをゲットしたんだ。東海岸の硬いゲレンデで、自己流でターンを学んだね。おかげで上達するのに何年もかかったな。でもその頃に、ただ毎日スノーボードがしたいって思ったんだよね。それは今でも同じ気持ちで変わらないことだね。
スノーボードを始めたころのヒーローは誰でしたか?
クレイグ・ケリー、テリー・キッドウェル、トム・バート、あとはジム・ゼラーを雑誌でよく見てたね。低い山が多い東海岸に住みながらも、その頃から山の頂上からボトムまで攻めるフリーライドが好きだった。
高度なクライミングスキルを必要とし、高いリスクがともなうビッグマウンテンスノーボーディングの世界に飛び込んだきっかけについて聞かせてください。
バーモント州でスノーボードをしていても、子供の頃からツリーランやパウダーを求めて山を遊んでいたんだ。ピークからボトムまで、いい地形を探して、雪の溜った沢を求めてね。東海岸のスノーボーダーは誰もが西海岸を夢見てる。僕もそのひとりだったよ。16歳のときに兄がジャクソンホールに引っ越したことをきっかけに、彼が惚れ込んだビッグマウンテンに出会ったんだ。あのときの衝撃は言葉にならないほどだね。それからは、ビッグマウンテンスノーボーディングは僕のパッションになったね。
『Farther』、『Deeper』、『Higher』の3部作を終え、今後の映像作品での発信はどのような展開を考えていますか?
昨シーズンだけで5作品のムービーに出演したよ。エレナ・ハイトとのプロジェクトが大きな作品のひとつだよ。今年も彼女との撮影で動くことが多くなりそうだな。来年は自分のムービーも考えてはいる。同じタイプのムービーをいくつも創るのではなく、さまざまなスタイルのムービーに協力していきたいね。『Higher』のリリース後、『Life of Glide』や『Ode to Muir』や『Roadless』をリリースした。今後もディレクターとして、そしてライダーとして映像制作に取り組んでいくよ。
Jeremy Jones 『Deeper』(’09) Trailer
Jeremy Jones 『Further』(’12) Trailer
Jeremy Jones 『Higher』(’13) Trailer
世界最高のスノーボーダーは、その瞬間を楽しんでいる者
ドロップインの前は、なにを考えていますか?
ピークを目指してハイクすることが多いから、狙ったラインのトップに立つまでに多くのことを観察して考えてるよ。ドロップインのときにすべての要素が100%でなくてはならない。同時に「引き返す」ための理由をつねに探している。ピークに立ったとき、そのフェイスを何時間も観察しているわけだから、すでに雪崩危険度に対する信頼性は高くなっているからね。だからこそ、ドロップインの前は自分の気持ちに集中できる。そこからは自分のスノーボードを信頼し、余計なことは考えないようにしてドロップするよ。
父親として、エクストリームなビッグマウンテンを攻める気持ちは? そして家族はどうサポートしてくれていますか?
バックカントリーでの環境はコントロールできない。危険をつねにリスペクトしている。そして正しい判断ができるように、つねに自分を高める努力をしているよ。だからといって、リスクを完全にゼロにすることはできない。父親として、無謀な行動をしないのは当たり前だけど、子供たちに自分たちが情熱を注いでいる姿を見せるのもひとつの役目だと考えているよ。
Jones Snowboardsのロゴのモチーフはどこの山ですか?
僕の心のなかに聳える山だね。(笑)
Jones Snowboardsのコアバリューとは?
パフォーマンス、耐久性、そして持続可能性とつねに向き合うこと。
Jonesのプロダクトは、さまざまなテレインに対応する多くのモデルをラインナップしていると思います。プロスノーボーダーとして、スノーボードを開発するうえで、もっとも重要な要素はなんだと思いますか?
Jones Snowboardsのラインナップは、それぞれがまったく違った個性を持っているよ。新しいボードをデザインしてラインナップに加える場合、ほかのボードとの明確な違いを持ったボードでなければいけないと思っている。そのなかには硬いボードや柔らかいボード、自分にとって最適なフレックスのボードもある。すべてのボードを自分好みにしては、どれも同じような特徴のボードになっちゃうでしょ? 目指していることは、同じ場所を何度も滑る場合、ボードを変えればまったく違ったライディングが楽しめるスノーボードをデザインすることだよ。
僕たちは「自分たちの孫から、地球を借りている」と思うべきだ
スノーボーディングの本質と情熱を燃やし続け、追い求め続けるためにいいアドバイスはありますか?
世界最高のスノーボーダーは、その瞬間を楽しんでいる者だ。だからスノーボードが楽しめないなら、ボードを変えるか、やることを変えるかだ。77億人いる世界の人口のなかで、僕たちはスノーボードを履いてリフトに乗っている。これほど恵まれた人々がいるだろうか? 次の世代に同じ幸運をもたらすために、より良い環境と地球を残さなければならないんだ。僕たちは「自分たちの孫から、地球を借りている」と思うべきだ。だからこそ、未来を守るためにPOWとして活動しているんだ。
POW Japanがスタートして、日本でもスノーボード業界が主導となったアクションが動きはじめています。今後のPOWの動きと、ひとりのスノーボーダーとして気候変動を止めるために心がけていることはありますか?
難しい問題は山ほどあるよ。日本は本当にユニークな国だと思う。僕自身が日本でなにかをしなくても、POW Japanのみんながアクションをはじめてくれているしね。だけどアメリカのシステムが変わるべきなのは明確なんだ。今のアメリカは、国内にあるだけの化石燃料をすべて消費し尽くそうとしているんだ。アメリカの化石燃料業界は世界最大規模で、国民を化石燃料の虜にしたいんだ。それに化石燃料によって儲けたお金で政治も動いている。僕たちが望むのは気候変動と真っ向から戦い、自然エネルギーや再生可能エネルギーを主としたアメリカ。だからこそ、気候変動懐疑論者を政界から追い出し、気候変動と戦うチャンピオンを政治の場に送り出す必要があるんだ。
プロスノーボーダーとしてのゴールはありますか?
プロとして活動を始めた頃は、スノーボードだけで生活している人間は世界でも数えるほどだった。若い頃は世界中の最高の場所で、毎日スノーボードをして生活することを夢見て、それが現実になると確信していたよ。そしてその目標は今も変わってないね。プロスノーボーダーかどうかなんて関係ない。今はラッキーにもスノーボードの活動を通してお金を貰い、家族を養っている。だから現状を大きく変える気もないよ。撮影のときのプレッシャーは昔ほど重くないし、ムービーを通して自分のストーリーを伝えて行きたいんだ。
最後に、日本のスノーボーダーにメッセージをお願いします。
日本でスノーボードをしているみんなは、本当に幸運だよ。たぶん、もうそのことはみんな気付いていると思う。日本は世界でも最高の場所だ。新しい場所をつねに探し求めて、いい雪と山を追い求めて、楽しむことを忘れずに最高のスノーボード人生を送ってほしい。
スノーボードという1本の板に出会い、生き方が決まる。ジェレミーだけでなく、スノーボードと雪山の引力に取り付かれた世界中のスノーボーダーたちが毎年雪を追い求めている。まったく、スノーボードってヤツは、ウマいこと自分たちの人生を最高のものに変えてくれたものだ。
ジェレミーの目指す「ただ毎日スノーボードをしていたい」というゴール。だからこそ地球環境を守り、次の世代に雪に恵まれた世界を残して行かなければならない。いたってシンプル、そして当たり前。だからこそ環境問題を難しく考えるべきではない。考えているより、行動することは簡単なのだから。グラフィックや話題性だけじゃない、未来を視野に入れたスノーボードの新しい選び方は、スノーボーダーだからこそできる行動の第一歩だろう。
流行に乗らず、自分の信じたことを続け、独自のマーケットと価値観を作り上げたJones Snowboardsとともに、ジェレミーはこの先もスノーボーダーたちの意思を未来へと繋いで行く。
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