3S SPIRITS

ブランドヒストリー

 

 ブチ切れた青い手。その手のひらでなにかを主張する大きな口。一度目にしたら忘れられないグラフィックのアイコン、”Screaming Hand”は3Sに精通している人間だけでなく世界中のストリートを席巻し続けている。そのアイコンとともに進化を続けるSanta Cruzの立ち上げのバックストーリーを振り返る。


 すべての始まりはサーフィンだった。1973年、アメリカはカリフォルニア州の海岸沿いの小さな町、サンタクルーズでサーフボードをシェイプしながら波乗り三昧の生活を送る若者たちがいた。リチャード・ノヴァーク、ダグ・ハウト、ジェイ・シャイアマンの3人だ。ある日、ハワイでショップを営む彼らの友人から電話が掛かってきた。「スケートボードを500台作ってほしい」と。ありふれたスケートボードを作るのは面白くない。そう考えた3人は、サーフボードの余剰資材などを用いて頑強なデッキを完成させ、彼らの育った町の名をプリントし、ハワイへと発送した。すると、すぐに再び友人から電話が掛かってきた。「例のスケートボードが完売したから追加発注したい」と。これがスケートボードブランドとしての第一歩だった。それ以降、Santa Cruzはスケートボードカンパニーとして成長していくことになる。
 ときは流れ、1989年。Santa Cruzはサーフィンとスケートボーディングのスピリットを雪山で表現し始めた滑り手たちのために、スノーボードの生産を開始。ボードは最高品質のマテリアルをふんだんに使用した、フルウッドコア仕様。インパクトの強いグラフィックも相まって、すぐに人気が爆発。さらにクリス・ローチやジョン・カーディエルといったレジェンドライダーを続々と輩出するなど、スノーボードにおいてもシーンを牽引する存在になるまで時間はかからなかった。




Fall Line Films 『Riders On The Storm(’92)』 ジョン・カーディエルのパートは15:37より



   


IDENTITY

アイデンティティを求めて

 


ジム・フィリップスが生み出したSanta Cruzロゴや”Screaming Hand”のバックストーリーを収録



 ブランドイメージを大きく左右するもの。それはブランドのコンセプトやヒストリー、そして誰がブランドに携わり、誰が愛用しているのか。さらに付け加えるならば、アイテムのビジュアル、つまりデザイン性も外せない要素のひとつである。ブランドの顔となるインパクトのあるロゴと、感度の高いユーザーを虜にするデザインなくして、Santa Cruzの発展は成し得ない。
 スケートボードの販売をスタートさせたSanta Cruzは、まずカンパニーロゴを確立させる取り組みに注力した。そこで創業者のひとりであるジェイは、まず地元に根を張って活動するアーティストたちから支援を得ることにした。そして彼らの協力によって完璧なカンパニーロゴが誕生し、ブランドを象徴するようなグラフィックが完成。それが“Santa Cruz Strip”と“Classic Dot”である。これらがスケートボードにプリントされてから、加速的に人気が高まっていったのだ。






 Santa Cruzのアーティスト陣のなかに後にスケートボードアート界の巨匠と言われるジム・フィリップスも名を連ねていた。1975年より現在に到るまで、Santa Cruz Skateboardsのアートディレクションを担当し、1000枚以上のスケートデッキを手掛けるなど、アーティストとして数々の作品を世に生み出していてる。
 ジムがSanta Cruzに関わるようになってから10年が経った1985年、あの名作グラフィックが発表されることになる。それが”Screaming Hand”だ。その叫び続ける青い手は、80年代のスケートボードカルチャーのシンボルとして、今に至るまで多くのファンに愛され続けている。“Screaming Hand”が、Santa Cruzを単なる地名でなく、ブランドというアイデンティティに進化させたのだ。



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TRADITION

引き継がれる伝統



 ブランド誕生から40年以上が経過した現在、Santa Cruzはサーフィン、スケートボード、スノーボードの3Sすべてを経験してきた。金のニオイに飛びついたビジネスマンたちが、ブームに乗って机上で作り上げたブランドにはないバックボーンがSanta Cruzにはある。幾多のブランドが産声をあげ、そして消滅していったが、Santa Cruzは3Sのそれぞれのシーンが最高の時代でも最低の時代でも、つねに前進を続けてきた。それは、ブランドに関わるすべての人が、創生期のスピリットを胸にブレることなく、着実に歩を進めてきた賜物である。






2017年1月に発表されたスケートムービーのトレイラー。「Santa Cruz Right To Exist」を観れば、このブランドのマインドを感じ取ることができるはずだ




大久保富伊

優等生ライダーはいらない。独創的な活動を続けるライダーこそSanta Cruzに相応しい。国内だけでなく海外メディアも注目する大久保富伊のフルパート





FUTURE

伝統と精神



 歴史あるブランドとしての伝統を引き継ぎつつも、過去の栄光にとらわれることなく、新しい血を絶え間なく注入してきたSanta Cruz。新旧のカルチャーが絶妙に交わり、さまざまな反応を起こすことで、新たな価値観を世の中に生み出してきた。このブランドに常識という言葉はいらない。どんなときでも変化を恐れずにチャレンジしてきたからこそ、今のSanta Cruzは存在するのだ。パンクなアティチュードを誇るチーム構成とブランドイメージ、斬新なプロダクト展開とスタイル溢れる映像作品の数々を発表していくことだろう。
 そして、Santa Cruzの伝統と精神は受け継がれていく。世界中のファンを魅了し続ける“Screaming Hand”のように。