INTRODUCTION





 「レジェンド」=伝説上の人物。 

 “Living Legend”と呼ばれるには、どれだけの要素が必要とされるのか? 

 やたらとレジェンドという言葉を使っている気がする今の世の中だからこそ、もう一度その言葉の定義を理解してみる必要がある。しかし、この人物をそんな軽い言葉で表現するにはあまりに軽率すぎるかもしれない。泣く子も黙るビッグマウンテンライダー。ジェレミー・ジョーンズ。

 これまでに50本以上のスノーボードフィルムに出演し、ヒマラヤを含む世界中の山の神々と出会い、Jones Snowboardsを立ち上げ、地球上でもっとも信頼のおけるスプリットボードをはじめとしたバックカントリーギアを世に送り出している。これだけの要素を持ってしても、彼を「レジェンド」という言葉で表現するにはやはり気が引ける。



Jeremy Jones ジェレミー・ジョーンズ


Photo: Andrew Miller







 あまりに自然体で、あたりを柔らかい空気感で包んでくれるジェレミー。そんな彼に1度会ってみるといい。携帯電話を片手に他人のことなどかまわない東京の街中でも、彼はウクレレをザックに入れ、スケートボードで渋谷の道玄坂をクルーズする。彼のユルさは一体どこから来るのだろうか? 張り詰めた空気感に包まれる山々のなかで自らを表現することのできる彼にとって、きっと下界の空気など取るに足らないのだろうか?    







Jeremy Jones ジェレミー・ジョーンズ


Photo: Andrew Miller







 滑り手目線のモノ作りやスノーボーダーとしての探究心は絶えることはなく、ブランド創設から10年の節目を迎えたJones Snowboards。そしてその世界的なブランドの舵を取るスノーボーダーであり、環境活動家でもあるジェレミー・ジョーンズを表現する言葉とは? 









THE HISTORY







Jeremy Jones ジェレミー・ジョーンズ


Photo: Andrew Miller







 「自分が満足できるスノーボードを造る。」それがジェレミーの原動力となった。

 ヨーロッパのメジャーブランドのライダーを19年務め、シグネチャーボードのリリースに合わせてボードデザインに関わるようになると、自分を含めた世界中のフリーライダーのニーズを理解するようになる。そしてバックカントリーギアのさらなる進化を追求するためには、既存のブランドでは限界がある、そう感じたジェレミーはチームを離れ、自分が想い描く最高のフリーライドボードの開発に向けて進みはじめた。

 納得のできるフリーライドボード、とくにスプリットボードをプロデュースするために数々のブランドへの投資も考えたが、返って来るマーケティングからの応えはどれも同じだった。

 「我が社は新たなフリーライドボードやスプリットボードに投資するつもりはない。」





Jeremy Jones ジェレミー・ジョーンズ


Photo: Andrew Miller







 ある年、YES Snowboardsを立ち上げたひとりであるDCPがヨーロッパの大手スノーボード生産工場であるNideckerをジェレミーに紹介したことをきっかけに、

  あのジェレミー・ジョーンズがブランドを立ち上げる!? 世界中のフリーライドファンがざわめいた。もちろん、コンセプトはフリーライディングに特化したスノーボード。「売れ線」であろう個性のないシェイプのフリースタイルボードなどには目もくれず、ハードチャージングのDNAをもつ、真のフリーライドボードだけがラインナップされた。なにが流行かなんて、マーケットの潮流は気にしない。Jones Snowboardsそのものがマーケットを作ればいい。10年経った今、それは現実のものとなった。

 フリーライドボードはつねにどのブランドにおいても必ず存在はしていたものの、フリースタイルムーブメントの波はそれらのディレクショナルボードをスポットライトの当たらない場所へと移していった。多くのメーカーのカタログラインナップを見てもやはりフリーライドボードの割合は少ない。ビッグマウンテンの映像は数あれど、やはり観る者たちを湧かせ、若い世代をこのカルチャーに引き込んだ立役者はフリースタイルスノーボーディングであるだろう。Jones Snowboardsはそれでもフリーライディングに特化したブランドを目指した。しかも、よりニッチなカテゴリーであるスプリットボードをラインナップに加えた。厳しい山で確実にパフォーマンスを発揮し、信頼できるスプリットボードを手に入れることは、ジェレミーがブランドを創設したひとつの理由でもある。







Jeremy Jones ジェレミー・ジョーンズ


Photo: Andrew Miller







 ユタ州の雪崩予報士であるブレット“カウボーイ”コバーニックにより、スプリットボードがこの世に産まれたのは1991年。山岳スキーギアの新しい形としてVoileが開拓し、1994年のDIYスプリットキットを皮切りに革命が始まった。しかし長年、スプリットボードは山ギアの延長でしかなかった。バインディングシステムやインターフェイス、クランポンからシールにいたるまで、滑り手が開発する道具というよりも“登るための道具の延長”というニュアンスが濃かったのだ。

 ソリッドボードをぶった切りDIYで造ることもできるスプリットボードではあるが、極限下で信頼できる満足のいくギアのクオリティには達しない。しかし、滑り手目線でシェイプされたスノーボードのパフォーマンスは捨てがたい。ジェレミー本人も、そのボードを求めていたひとりである。登りも下りも、スノーボーダーたちが満足するスプリットボードのニーズが増え続けていた。だからこそ「滑り手が考えるスプリットボード」を世に送り出し、成功を収めたスノーボードブランドとしてはJones Snowboardsが歴史上はじめてだと言えるだろう。彼はスノーボーダーとして自分自身でこれまでになかったマーケットを作り上げたのだ。





jones snowbboards


Photo: Andrew Miller







 10年という歴史のなかでJones Snowboardsは多くの功績を残してきた。世界中のベストセラーとなったスプリットボードのソリューションやショートボードの革命ともいえるHover Craft、ハードに山を攻める女性たちへ向けたスプリットボードなど、代表作は数多い。また3Dコンツアーベースやトラクションテック、スピードチャネルをはじめとしたボードテクノロジーや、カリフォルニアのサーフシェイパーであるクリス・クリステンソンと共同で開発されたSurfシリーズ。カーボンファイバーをトップシートに採用したCarbonシリーズや最新鋭の素材を惜しみなく使ったUltraシリーズ。さらにはプローブやシャベル、バックパックなどのアバランチギアまで、ジェレミーのこだわりが詰め込めらたプロダクトがラインナップされた。そして最近ではNOW Bindingsとタッグを組み、フリーライディング&サーフテイストの両方で機能するバインディングをリリースしている。





jones snowbboards






 シェイプや信頼性、また自身が体現するライディングパフォーマンスがJones Snowboardsを大きく躍進させた要素であることは間違いない。しかしそれ以上にJones Snowboardsには世界中の注目を集めるパフォーマンスがある。それは環境への責任を考えたパフォーマンス。彼らはそれをECOパフォーマンスと呼んでいる。













SOCIAL RESPONSIBILITY





Jones Snowboards


Photo: Brad Slack









 長年にわたり雪山の第一線で活躍し、世界中の山の雪を知るジェレミーは、ある年大きな変化を感じることになる。それは冬が短くなっているということ。それ以降ジェレミーは化石燃料を多く使った二酸化炭素を排出するヘリコプターでの撮影を一切止め、自分の足とスプリットボード、そしてアルパインクライミングの技術を使い自分のラインを刻むようになった。

 環境への配慮は彼の私生活や山へのアプローチだけではなく、Jones Snowboardsのプロダクトにも徹底して反映されている。森林管理協議会(FSC)による認証を受けたウッドコア、自然由来のレジン、亜麻繊維やバサルトなどの石油由来ではない強化素材、リサイクルエッジ&ABSサイドウォール、水性インクからリサイクルプラスチックのトップシートまでスノーボード構造の隅々まで徹底して持続可能なアイデアが埋め込まれているのだ。そして工場が位置するアラブ首長国連邦の近隣諸国より資源を調達することにより、プロダクトの生産におけるカーボンフットプリント(製品作りにおいて排出される二酸化炭素)を抑えるなど、サスティナブルな取り組みに妥協をしていない。生産工場では人権、環境、平等性、消費者への責任、そして労働環境の5つの行動規範を国際基準に従って定めている徹底ぶりだ。

 Jones Snowboardsに関わるすべての人、モノ、環境において社会的責任を考えてブランドは運営されているのだ。

 Jones Snowboardsの考える社会的責任は広く、1%for the Planetを通じた草の根環境団体への寄付や森林伐採と戦うCommunity Carbon Treesへの援助協力。世界中の滑り手にチャンスを与えるAmbassador Adventure GrantやLive Like Lizなどの奨学金制度、そして世界中で広がりを魅せる滑り手による気候変動と戦うムーブメントであるProtect Our Winters(POW)への多大な協力など、ジェレミーが考える社会的責任の範囲はとにかく広い。とくにProtect Our Wintersに関してはジェレミー自身が創始者となり、近年はスーツとネクタイを身に纏い、気候変動がアウトドアスポーツに与える影響を母国に訴えるためにアメリカ議会と戦っている。





Protect our Winters


Photo: (L) James Q Martin, (C, R)Forrest Woodward









 利益と生産性と追求したマーケットの波に乗り、「ただ単に“エコ”と名札を付ければ売れるだろう」という安易な考えとは比べ物にならない製品への環境配慮。モノを造るうえで大切なパワーソースとなる人や環境。そしてスノーボーダーたちの未来を左右する地球環境までを視野に入れているJones Snowboardsの懐はとにかく深い。

 100年後の未来でもパウダーを滑るために、彼らは本気で取り組んでいる。





THE MAN: JEREMY JONES







ジェレミー・ジョーンズ Jones Snowboards

Photo: Andrew Miller



 厳しい山々で信頼性のおけるギアを生み出し、自分自身もフリーライディングの限界へと挑戦し続け、また脱炭素社会を目指すためにスノーボーダーたちにとって未知の世界へと踏み入れているジェレミー・ジョーンズ。彼のスノーボードに対する考え方、環境や未来へのビジョン、そして山との向き合い方について話しを聞いてみた。





ビッグマウンテンスノーボーディングは僕のパッション







まずはスノーボードとの出会いについて教えて頂けますか?

8歳の頃にスケートボードを始めて、12歳でサーフィンにハマったよ。波に乗る感覚や、コンクリートを滑る感覚の虜になったね。当時はスキーもしていたけど、Thrasher Magazineでスノーボードを目にしたとき、「オレにはこれが必要だ!」って直感したね。人生初のスノーボードは地元のバーモント州にある量販店で手に入れた。クリスマスプレゼントにどうしても欲しくて、サンタクロースの機嫌もよかったのもあって、BurtonのBackhillをゲットしたんだ。東海岸の硬いゲレンデで、自己流でターンを学んだね。おかげで上達するのに何年もかかったな。でもその頃に、ただ毎日スノーボードがしたいって思ったんだよね。それは今でも同じ気持ちで変わらないことだね。

スノーボードを始めたころのヒーローは誰でしたか?

クレイグ・ケリー、テリー・キッドウェル、トム・バート、あとはジム・ゼラーを雑誌でよく見てたね。低い山が多い東海岸に住みながらも、その頃から山の頂上からボトムまで攻めるフリーライドが好きだった。

高度なクライミングスキルを必要とし、高いリスクがともなうビッグマウンテンスノーボーディングの世界に飛び込んだきっかけについて聞かせてください。

バーモント州でスノーボードをしていても、子供の頃からツリーランやパウダーを求めて山を遊んでいたんだ。ピークからボトムまで、いい地形を探して、雪の溜った沢を求めてね。東海岸のスノーボーダーは誰もが西海岸を夢見てる。僕もそのひとりだったよ。16歳のときに兄がジャクソンホールに引っ越したことをきっかけに、彼が惚れ込んだビッグマウンテンに出会ったんだ。あのときの衝撃は言葉にならないほどだね。それからは、ビッグマウンテンスノーボーディングは僕のパッションになったね。

『Farther』、『Deeper』、『Higher』の3部作を終え、今後の映像作品での発信はどのような展開を考えていますか?

昨シーズンだけで5作品のムービーに出演したよ。エレナ・ハイトとのプロジェクトが大きな作品のひとつだよ。今年も彼女との撮影で動くことが多くなりそうだな。来年は自分のムービーも考えてはいる。同じタイプのムービーをいくつも創るのではなく、さまざまなスタイルのムービーに協力していきたいね。『Higher』のリリース後、『Life of Glide』や『Ode to Muir』や『Roadless』をリリースした。今後もディレクターとして、そしてライダーとして映像制作に取り組んでいくよ。







Jeremy Jones 『Deeper』(’09) Trailer





Jeremy Jones 『Further』(’12) Trailer





Jeremy Jones 『Higher』(’13) Trailer











世界最高のスノーボーダーは、その瞬間を楽しんでいる者







ドロップインの前は、なにを考えていますか?

ピークを目指してハイクすることが多いから、狙ったラインのトップに立つまでに多くのことを観察して考えてるよ。ドロップインのときにすべての要素が100%でなくてはならない。同時に「引き返す」ための理由をつねに探している。ピークに立ったとき、そのフェイスを何時間も観察しているわけだから、すでに雪崩危険度に対する信頼性は高くなっているからね。だからこそ、ドロップインの前は自分の気持ちに集中できる。そこからは自分のスノーボードを信頼し、余計なことは考えないようにしてドロップするよ。

父親として、エクストリームなビッグマウンテンを攻める気持ちは? そして家族はどうサポートしてくれていますか?

バックカントリーでの環境はコントロールできない。危険をつねにリスペクトしている。そして正しい判断ができるように、つねに自分を高める努力をしているよ。だからといって、リスクを完全にゼロにすることはできない。父親として、無謀な行動をしないのは当たり前だけど、子供たちに自分たちが情熱を注いでいる姿を見せるのもひとつの役目だと考えているよ。

Jones Snowboardsのロゴのモチーフはどこの山ですか?

僕の心のなかに聳える山だね。(笑)

Jones Snowboardsのコアバリューとは?

パフォーマンス、耐久性、そして持続可能性とつねに向き合うこと。

Jonesのプロダクトは、さまざまなテレインに対応する多くのモデルをラインナップしていると思います。プロスノーボーダーとして、スノーボードを開発するうえで、もっとも重要な要素はなんだと思いますか?

Jones Snowboardsのラインナップは、それぞれがまったく違った個性を持っているよ。新しいボードをデザインしてラインナップに加える場合、ほかのボードとの明確な違いを持ったボードでなければいけないと思っている。そのなかには硬いボードや柔らかいボード、自分にとって最適なフレックスのボードもある。すべてのボードを自分好みにしては、どれも同じような特徴のボードになっちゃうでしょ? 目指していることは、同じ場所を何度も滑る場合、ボードを変えればまったく違ったライディングが楽しめるスノーボードをデザインすることだよ。









僕たちは「自分たちの孫から、地球を借りている」と思うべきだ







スノーボーディングの本質と情熱を燃やし続け、追い求め続けるためにいいアドバイスはありますか?

世界最高のスノーボーダーは、その瞬間を楽しんでいる者だ。だからスノーボードが楽しめないなら、ボードを変えるか、やることを変えるかだ。77億人いる世界の人口のなかで、僕たちはスノーボードを履いてリフトに乗っている。これほど恵まれた人々がいるだろうか? 次の世代に同じ幸運をもたらすために、より良い環境と地球を残さなければならないんだ。僕たちは「自分たちの孫から、地球を借りている」と思うべきだ。だからこそ、未来を守るためにPOWとして活動しているんだ。

POW Japanがスタートして、日本でもスノーボード業界が主導となったアクションが動きはじめています。今後のPOWの動きと、ひとりのスノーボーダーとして気候変動を止めるために心がけていることはありますか?

難しい問題は山ほどあるよ。日本は本当にユニークな国だと思う。僕自身が日本でなにかをしなくても、POW Japanのみんながアクションをはじめてくれているしね。だけどアメリカのシステムが変わるべきなのは明確なんだ。今のアメリカは、国内にあるだけの化石燃料をすべて消費し尽くそうとしているんだ。アメリカの化石燃料業界は世界最大規模で、国民を化石燃料の虜にしたいんだ。それに化石燃料によって儲けたお金で政治も動いている。僕たちが望むのは気候変動と真っ向から戦い、自然エネルギーや再生可能エネルギーを主としたアメリカ。だからこそ、気候変動懐疑論者を政界から追い出し、気候変動と戦うチャンピオンを政治の場に送り出す必要があるんだ。

プロスノーボーダーとしてのゴールはありますか?

プロとして活動を始めた頃は、スノーボードだけで生活している人間は世界でも数えるほどだった。若い頃は世界中の最高の場所で、毎日スノーボードをして生活することを夢見て、それが現実になると確信していたよ。そしてその目標は今も変わってないね。プロスノーボーダーかどうかなんて関係ない。今はラッキーにもスノーボードの活動を通してお金を貰い、家族を養っている。だから現状を大きく変える気もないよ。撮影のときのプレッシャーは昔ほど重くないし、ムービーを通して自分のストーリーを伝えて行きたいんだ。

最後に、日本のスノーボーダーにメッセージをお願いします。

日本でスノーボードをしているみんなは、本当に幸運だよ。たぶん、もうそのことはみんな気付いていると思う。日本は世界でも最高の場所だ。新しい場所をつねに探し求めて、いい雪と山を追い求めて、楽しむことを忘れずに最高のスノーボード人生を送ってほしい。





ジェレミー・ジョーンズ


Photo: Andrew Miller







BECAUSE OF SNOWBOARDING



 スノーボードという1本の板に出会い、生き方が決まる。ジェレミーだけでなく、スノーボードと雪山の引力に取り付かれた世界中のスノーボーダーたちが毎年雪を追い求めている。まったく、スノーボードってヤツは、ウマいこと自分たちの人生を最高のものに変えてくれたものだ。

 ジェレミーの目指す「ただ毎日スノーボードをしていたい」というゴール。だからこそ地球環境を守り、次の世代に雪に恵まれた世界を残して行かなければならない。いたってシンプル、そして当たり前。だからこそ環境問題を難しく考えるべきではない。考えているより、行動することは簡単なのだから。グラフィックや話題性だけじゃない、未来を視野に入れたスノーボードの新しい選び方は、スノーボーダーだからこそできる行動の第一歩だろう。

 流行に乗らず、自分の信じたことを続け、独自のマーケットと価値観を作り上げたJones Snowboardsとともに、ジェレミーはこの先もスノーボーダーたちの意思を未来へと繋いで行く。



ジェレミー・ジョーンズ


Photo: Andrew Miller

































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