フリーライディングシーンのメッカ、アメリカはジャクソンホールにて2013年にスタートした「Shaper Summit」が2020年2月、ついに日本に上陸。
初開催となった「Shaper Summit Japan presented by 241, Avalon7」はオリジナルシェイプを手掛けるボードシェイパーとブランドが一堂に集い、さまざまなボードをテストしながら滑り倒す。という本国のコンセプトはそのままに、新潟県はかぐらスキー場にて開催された。多様な雪質やテレインを有する日本ならではの独創的な逸品のみならず、カルチャーのルーツを感じさせる海外ブランドのボードたちがズラリと並ぶ、スノーボード愛好家ならハズす訳にはいかない注目のイベントに潜入。
Photos: Kentaro Fuchimoto, Epic Snowboarding Magazine.
Special Thanks: Rob Kingwill, Naoyuki Watanabe, Yosuke Nishida, Taizo Fukushima, Nobuyuki Ohe.
Shaper Summit(前・Jackson Hole Pow Wow)は、ジャクソンホールローカルでハーフパイプ選手として活躍したロブ・キングウィルの呼び掛けにより始まったイベント。各地のローカルマウンテンに点在するシェイパーたちが集結し交流を深め、インスパイアし合いながらボードデザインの知見を深めるとともに、一般参加者やシェイパーたちも交えてボードテストと称したライディングセッションをおこなう。カタログを見るよりも、展示会での立ち話よりも、あくまで現場主義。これまで乗ったことのなかったシェイプや思考に触れるセッションは、スノーボードライフのディープなところに刺激を与える絶好の機会だろう。
会場となった2月下旬のかぐらスキー場に到着すると、国内初開催を祝うかのようなドカ降り。湯沢エリアならではのカサのある雪は、展示ボードが少し目を離した間に埋まるほどに降り続け、山全体を白く包んだ。来日した主催者ロブ・キングウィルに加え、マイク・バシッチも来場し、ふたりのレジェンドとのライディングセッションも行われ、参加者たちはディープパウダーでのセッションとボードテストを満喫した。
独創的なルックスとファットなシェイプのボードを持参し、北海道より参加したHIPO Pow○Deck(ハイポ・パウデッキ)。雪板たちの滑り止めはヨガマット仕様。密着性、コスパともに4mmのマットがベストだそう
1日目の夜には、Shred Talkと題された参加シェイパーらの座談会や、Fighting Farmersの生ライブがおこなわれた。そして、ロブ・キングウィル、マイク・バシッチ、美谷島 慎がフォトスライドショーやムービーを上映。それぞれ濃厚なプロキャリアを有する3人の活動にかける思いを生の言葉で聞くことのできた、スペシャルな一夜となった。
あくる2日目、天気は雲ひとつない晴天。のんびりと板を見る陽気ではなかった1日目を過ごした参加者たちは、ここぞとばかりに板を試乗&シェイパーに質問攻め。シェイパーとの会話からその板のストーリーを聞くだけで、乘ったときの味わいがより一層深く、明確になる。ボードテストだけでなく、雪板シェイパーの五明 淳(芽育雪板)がプロデュースしたミニパークでのスノートイセッションも大いに盛り上がった。
雪面を気持ちよく、自分の思い描いたラインで滑りたい。ここに並んだボードたちの主な目的は、それに尽きる。日本各地のシェイパーが手掛けたアウトラインの数々は、それぞれが強烈な個性を放っていた。“雪の上”という共通のサーフェイスを滑るための道具であるスノーボードが、結果としてあらゆるアウトラインに落とし込まれるのは非常に興味深い。
来場していたブランドディレクターやシェイパー本人に、ボード製作のビハインドストーリーを聞いてみた。
Prana Punks Snowboarding – Peanuts 146 –
「これは五明 淳がシェイプした雪板がベースになっているんだ。ハンドシェイプで仕上げた雪板の現物を測って、工場のプレス機の幅に収めるために、少しサイズダウンさせたんだ。コアは国産のヒノキとキハダのミックス。国産のヒノキは軽いし、反発が良くて、早いところが気に入っているよ。
板づくりのアイデアは、自分たちの手となり足となるスノーボードだから、やっぱり自分たちの環境に左右されるんじゃないかな。僕らの場合は森のなかを気持ちよ〜く、ウサギくらいのスピード感でシャシャっと滑りたい。そんなイメージで板を作っているね。」(Prana Punks Snowboarding 代表 渡辺尚幸)
Winter Stick × T.J Brand – Swallow Tail 158 T.J Original –
「Winter Stickが世界で初めてスワローテールの板を世に出して、ブランドを象徴するようなモデルでもあるSwallow Tailと、T.J Brandとのコラボレーションというカタチで158を作ったんだ。サイズ感を落としたり、ボトム形状もキャンバーからフラットに変更したり、日本の地形に合わせたアップデートを加えている。フラット形状の板を提案し続けているT.Jのマインドを融合させた感じだね。実際にWinter Stickライダーでもある主催者のロブも乗り味を気に入ってくれてるし、このコラボモデルを作ることで深まったコネクションが、今回のShaper Summitの日本初開催を実現させた。このイベントはすべてこの板から始まったんだよ。」(T.J Brand ブランドディレクター 西田洋介)
Sunrise Shred Service -N25-
「Sunriseのロゴにもある通り、僕らのスノーボードづくりはスケートボードからインスパイアを受けたプライウッド工法から始まっているんだ。今は一般的な大量生産のスノーボードの工法と同じボードも作っているんだけど、今回はシェイパーイベントってことで、シンプルなプライウッドのボードをピックした。これは厚みも手を入れずに等厚で出して、ファイバーグラスもなし。だから言ってしまえば、折れやすい板なんだよね。そもそも乗りかたが違くて。面で乗っていかないとダメで、普通のスノーボードみたいにテールだけに乗ったりすると折れちゃうんだ。ただ、パウダーの乗り味は最高。プライウッドの板は格別に気持ちいいんだよね。
シェイプに関しては、自分たちのフィールドが谷川岳だから、そこでの乘り味っていうのが先行していってて。ただ、そこだけでしか調子よく乗れないっていうのじゃ面白くないし、細かい調整を加えてる。フィールドとしては谷川岳がベースとしてあるけど、他の山でも楽しめるように考えてはいるかな。」(Sunrise Shred Service 岡野 弘)
T.J Brand – Origin 162 –
「テーパードシェイプのビッグマウンテンオールラウンドボードだね。この板は2003年にTwelve Snowboardsから初めてTJシリーズを作ったときにリリースした、The Dayというモデルがベースになっている。カナダのOptionの工場に残してきたこのシェイプの金型は、のちにマイク・ランケットが某ブランドで自分のモデルとして使用していたという逸話もあるくらい、完成度の高いシェイプ。当時のアウトラインはそのままに、中身の素材を現代版にアップデートして11年ぶりに復活させたのが、このOrigin。復刻させるにあたって、フレックスパターンを変えたのが一番大きなアップデートになっているかな。工場も新潟のActgearで日本メイドでやっていることで、コアの素材のいいところを最大限に引き出せるんだよね。いろんな木材を使用して、何度も乗り味を試してキリとヒノキにたどり着いた。そこから不等厚のパターンを調整していくことで短い板のように感じたり、逆に長く感じたりもするんだけど、そこの調整はかなり細かく刻んで決めていったかな。カッチリ決めるよりも、日本人スノーボーダーのセンシティブなところをくすぐるように仕上げるイメージ。テーパードがパウダーでの操作感に効いてくるし、乗った感じは162というよりも158くらいな取り回しのしやすさを出せた。162だとどうしても長過ぎるという印象を与えがちなんだけど、この板はそうじゃなくて。156から158あたりのレングスに普段乗っている人でも、もっと速いスピード域で、大きいターンをしたいと考えているようなら、この板はバッチリだよ。」(T.J Brand アンバサダー 三上晃司)
Green.Lab Snowboards -Grassroots 156-
「Green.Labのラインナップでいうとオーソドックスな板は揃っているから、少し変わったシェイプの太めの板を作りたいな、っていうのが発端で。このモデルに関してはベースになるプロトタイプをハンドメイドで作ってテストしていたんだ。エッジ付きのハンドメイドボードの作り方をHT Craftの堀田さんから教わって実践している仲間が近所にいて。1年くらいそれを乗ってから、アクトギアの工場に持ち込んで、改良を加えながら製品に仕上げていった。10年以上スノーボードを作ってきてるから、数字だけでもイメージは湧くんだけど、まったく新しいシェイプを作るときはプロトタイプを作らないとわからないっていうのがあって。ウエストが太いと浮くというのはプロトタイプを作ったときに改めて感じたよね。
太いことで曲がりづらくなるのが心配だったけど、キャンバーを足の間までにして、ノーズとテールはロッカーさせて、有効エッジを短くしているから、だいぶ取り回しやすい板にできた。テーパーもホントは1〜2cm入れればもっとテールが沈んで動かしやすくなるんだけど、あえてそうせずにテールを残して、フリースタイルに遊べる板にしたかった。ショートファットの板はいま数多くあるけど、自分的には短い板を使う機会は結局のところあまりなくて。バックカントリーも行くし、やっぱりいつも使える板を作りたい思いがあるんだよね。オールラウンドボード1本で春まで過ごせたら、それはそれで最高じゃんね。」(Green.Lab Snowboards 代表 中山二郎)
HT Craft
「うちの場合、基本的に完成品のボードの販売はしていないので、ここには自分用にシェイプしたボードの一部を展示しています。これまでは谷川岳を安全に滑りたいという思いがあったので、ベーシックなキャンバーでディレクショナルツインよりで、ノーズを長めにして浮力を確保していくような板を作っていたんですが、この板はバンクドで上に行きたいなっていうので、幅を狭くしてサイドカットを調整して、バンクド仕様に仕上げてみたボードですね。
HT Craftはボードブランドとして運営はしていないのですが、板の材料の販売とスノーボードづくりのワークショップを開催しています。僕の知っているハンドメイドの知識を各地のスノーボーダーのみなさんに託して、広がっていったらいいなと思っていて、実際に来てくれたみなさんにはこのやりかたを自分たちだけで留めるのではなく、どんどん広げていってください。と話をしています。“スノーボードを作る”ということをみんなに楽しんでもらいたいなと思いでやっています。」(HT Craft 代表 堀田秀一)
Shaper Summitに出展していた作り手たちのマインドに共通するのは、その板で滑りたい山の斜面を頭の中に描いているということ。それは自身が滑り込んでいるホームマウンテンであったり、これから挑戦したい斜面、年に1度参加するレースのバンクであったりと多種多様だ。もちろん、自分の乗りたい板を作っているのみでは、ブランドを続けていくうえで難しい局面が多々あることは想像に容易い。ただ、ここに並ぶボードたちを前に同じスノーボーダーとしては感じずにはいられないのは、手掛けたシェイパーたちの、スノーボーダーとしての滑り以外でのクリエイティビティと主張。滑り手、作り手としてのアイデンティティと、乗り手に対する気遣いの絶妙なバランスを乗りこなす先輩スノーボーダーたちの姿は、今後のスノーボードライフにまだまだ未知数の楽しみが残されていることに、改めて気づかせてくれた。
板のマテリアルやスペックはもちろん、滑る山の地形、斜度、雪質、そして、滑り手自身の体格やライディングスキル、シチュエーションなど、無数の要素が絡み合って初めてその日のベストボードが決まる。自分自身のイメージを投影させたボードで刻むターンは、どれほどに気持ちが良いモノなのだろうか。それを探求する道は、知れば知るほどに深く、歩を進めるほどにスノーボーディングの魅力にのめり込ませてくれるのかもしれない。
シェイパーたちが追求している、“スノーボードづくり”という名の贅沢なライフワーク。このムーブメントはもはやブランドやビジネスの枠を超え、多くのスノーボーダーたちによって実践されている。トリックや表彰台の先にあるスノーボーディングの世界を垣間見ることのできる稀有なイベント、Shaper Summit。日本初開催を逃したところで遅くはない。心地良いパッションに包まれる、好きモノの集いは必ずまた開催される。
頭に描き続けたシェイプを育て上げ、ライドする。このムーブメントに触れればこの先のスノーボーディングがますます楽しみになってしまうのは間違いない。
アナタなら、どんな板を作りますか?