谷川岳の麓にスノーボードショップMinakami Baseを構え、これまでに奥只見や天神平のパークをディガーとして手掛けてきた平良 光。そして、日本最大規模の地形イベント、天神平Minakami Vibesのコース造成をオペレーターとして手掛ける、諸田直人。
群馬・水上エリアを拠点とする彼らはディグとライドを求め各地の地形パークに出向いている。世界最大規模の地形の祭典Holy Bowlyや日本各地の地形イベント、人生の半分をディグ&ライドに捧げる彼らが現場で見たもの。そして彼等の展望とは。
Interview by Epic Snowboarding Magazine, Photos by Yuya Photo, Atsuo Itakura
2005年に丸山隼人が奥只見丸山スキー場で手掛けたボウルイベント、The Wallから始まり、今もなお世界中で深化を続ける地形ムーブメント。小松吾郎をはじめとする地形研究会によるDream Sessionをはじめ、今や国内において各地で創り出される雪のアート造成の裏には、ディガーやオペレーター(圧雪車乗り)の存在が欠かせない。今回はさまざまな地形を追い求める滑り手でもあり、名だたる地形イベントのディグに刺さりにいっているふたりの男に話を聞いた。
滑り手としてはもちろんだが、地形造形に魅せられたふたりは、Minakami Vibesをはじめ、天神Banked SlalomやMinakami Banked Classicなどの地形の造形を手掛ける
ふたりはいつからディガーやオペレーターを始めたの?
平良 光(以下H):20歳になってファースト石打スキー場でディガーをはじめてから、春は奥只見丸山スキー場をメインに8シーズンくらいディグしながら、奥只見が閉鎖期間のハイシーズンは、片品のサエラスキーリゾード尾瀬、武尊牧場、水上の宝台樹、奥利根って群馬エリアのいくつかのスキー場でディガーをして、今年で14年目。
諸田直人(以下N):俺は18歳から天神平でオペレーターやってる。16年になるかな。
めっちゃ長いんだね(笑)。人生の約半分がディグライフ。ところで、ふたりはどうやって出会ったの?
H:それが俺らちょっと曖昧で(笑)。水上で共通の仲間と滑っていて出会ったのが最初だと思う。実際に俺らが急接近したのは天神平のディガーをナオトとふたりでやったとき。ちょうどそのタイミングで大造さん(福島大造)と出会って天神バンクドスラロームを手伝わせて貰ったり、Holy Bowlyが天神で開催されたときに西田さん(西田洋介)に声をかけてもらってディガーに入れてもらえたり、ノリくん(勝山尚徳)と出会ってMinakami Vibesもガッツリ一緒に整備したり。思えばそのときが水上に根を張るキッカケになる出会いのシーズンだった。今ではMinakami Vibesは、ノリくんから「お前らが中心でココを仕切れ」とか半端じゃない重責を背負わされて、セクション造成を任される精神修行で鍛えられて(笑)。Minakami Vibesの絆というか試練を超える同志というか。そういう場にはいつもナオトもいたからか、今ではパークを作るのに“欠かせない存在”だって思ってる。
Minakami Vibes 2018 Photo: Atsuo Itakura
かなり長いこと一緒にやってるんだね。話は変わって、世界最大規模の地形イベントHoly Bowlyに今年も参加していたけど、 行く理由と目的はなんだったの?
H:もともと行きたい気持ちはあったけど、じつは今年は無理かなーと思ってた。そもそも去年開催のときに参加したのが直人の転職のタイミングというのもあって、家族の理解を得ての「海外遠征最初で最後のチャンス」って言ってたから。でもそんなとき、Minakami Vibesの造成中の夜に兄貴分のノリくんから「お前ら行くしかないでしょ、行け。決定。」って喝入れがあって(笑)。言い方はムチャクチャだったけど自分はその言葉にハッとさせられて行くって気になってた。しかもその翌日にオーガナイザーのクラッシュから招待のメールが届くビタビタのタイミングもあって、もはや2秒で参加表明した(笑)。
N:そうそう。今回はマジで無理だと諦めてて、ノリさんに「行くでしょ!」って言われて、それどころか「Holy Bowlyのオフィシャルディガーに入っちゃえばいい!」って言われて内心は、この人は相変わらずすげぇこと言うなぁって思ってて、隣を見てみたら、すでに目を輝かせている光がいて…。その時点で行くしか選択肢がなくなっていた。そういうこともあって今回は“オフィシャルディガー入りの直談判”っていうミッションも加わったんだよね。じつは舞い上がりすぎて現地に着いたときにはミッションを忘れてたけど(笑)。
じゃぁ来年もHoly Bowlyはディガーとして参加するのかな? クラッシュにはどんなふうに話したの?
H:とりあえず「Holy Bowlyにオフィシャルディガーはいないのか?」って聞いたら、10人くらいはいるみたいで。「俺たちも天神のときみたいにまた作るところから一緒にやりたいんだ」みたいに話したら「マジで!? 2週間くらい来れるか!?」って喜んでくれて。だから来年も死ぬ気でも金を作って行きたい。ちなみにこれはまだ決まってないことだけど、クラッシュが「来年は“メメス”で開催考えてるぞ」って言ったように聞こえたんすよ。でもその“メメス”どこなのかわからんくて「へー初めて聞いた」って言ったら「え!? “メメス”だぞ! 知らないのか!?」言われたんすけど、あとで大輔さん(小嶋)に話したら「それ“マンモス”ちゃうの?」言われて「あぁー!! マンモス!?」って話もありました.。だから来年の予定も英語力を上げてアメリカかな(笑)。
トレイラーハウスでの6日間の強行トリップを満喫した彼らは毎夜、寝落ちするほどオンもオフも楽しんだ
Photo: Yuyaphoto
Holy Bowly 2018のコースはどうだった? 日本発祥って言われる地形ムーブメントに、海外のスパイスが加わってるコースだと思うけど。
H:日本では“繋ぎ”を大事にして造られていると思うんだけど、Holy Bowlyでは思いついたアイテムをとりあえず絵に書いていって、パズルのように組み合わせてレイアウトを造ってる。最初からラインを繋ぐ意識で造ってるわけじゃない。だからひとつひとつのセクションが凄く奇抜な形だったり、アイテムがドン、ドン、ドンってあるし、1発1発でも遊べるオブジェが並んでる。造り方と遊び方、考え方が日本と違う。アイテムの入りが全部クイックだったり、アイテムとアイテムの繋ぎも追求まではしてないから、いい意味でライダー任せ、お前らがラインを見つけろ、作れ、みたいな。それも楽しさのひとつになってた。Holy Bowlyに行くのは、3回目だからそういうのも分かって参加していたし、俺はこのスタイルも結構好きかな。
N:ラインが繋がらないんだろうなって分かって行ってるのに、最初はラインが見つからなくて凹んでた(笑)。海外のやつはみんな上手いし、どうやって遊べば良いんだろうって散々悩んだりもしてたかな(笑)。
H:ブレア先輩(ハベニクト)とトレインして、ブレアはしっかりラインが繋がってた。自分が行きたいラインも全部分かってて、ハイスピードでも飛びながら繋げて行ってた。俺らは「そんなデカく飛べるとこないね」とか話してたところもバンバン連チャンで飛んでたりして。だから、Holy Bowlyで「繋がってない」とか言ってる方が格好悪いんだなって分からされたとこもあった。
Rider: Naoto Morota Photo: Yuyaphoto
Rider: Hikaru Taira Photo: Yuyaphoto
ライダー次第で遊び方が自在なんだね。整備のやり方で違いを感じたことはある? ライダーも整備したりするの?
H:整備は全員! インビテーションのメールにいろいろと参加のルールが書いてあるんだけど、「1. シェイプしない奴は滑るな」、「2. シェイプしない奴は滑るな」って念押しで書いてあった。滑り終わったら全員でシェイパーを持って整備して綺麗にしていく。これはきっと奥只見でバブルスさんが始めたThe Wallから続く日本の地形イベントから影響を受けた文化だと俺は思ってる。
なるほどね。日本でもみんなで整備するけど違いはある?
N:整備の仕方がちょっと違う。日本だと元の地形に戻すように整備するけど、Holy Bowlyの場合はアイテムが小さくなっても良いから削って綺麗にする。ライダーもそれぞれのやりたい場所で好きな形に整備、というかシェイプしていく感じ。
H:そう。その辺りもライダー次第って感じ。日本で俺らは常設のパークじゃないとはいえ、セクションの形をキープする為に雪をボトムから押して元の形に戻す感じでやってるけど、海外の奴らは上からガンガン削るみたいな。だから地味に昨日と違うアールに変化してたり、場合によっては新しい遊び方が生まる進化をしてたり、それはそれで面白いところだった。
与えられたセクションにライダーの個性が加わって日々変わっていく感じなんだね。印象に残っている地形とかある?
H:俺はいつもの好きなところがあって、富士山みたいな、ボルケーノみたいなアイテム。円錐が2段になってて、上が火山の火口みたいになってて、Holy Bowlyではおなじみのような地形。遊び方のセオリーがなくてライダーの表現次第だから、誰かが入るたびに「うわっ、それかぁ! じゃあ俺は!」ってやり合う感じが超楽しい!
N:俺はコントローラーの十字キーみたいなやつかな。遊び方が難しかったけど、印象に残ってる。アイテムの上の部分が特殊な形で横がノリ面になってるって感じ。バッテンとか丸と丸が繋がってるやつとか、ミステリーサークル、ナスカの地上絵みたいな。そうゆうやつが今年は特に多かった気がする。バンフのときはオッパイが多かったけど、今年はアイテムの上がフラットで色んな形があったって印象。
Holy Bowlyといえば、そういう変わったアイテムの印象だね。セッションの雰囲気で日本との違いを感じたことはある?
H:日本人の方が基本的にシャイだなっていうのはあるけど、セッションの雰囲気自体は変わらないかな。Holy Bowlyでは全然知らない俺たちにも、「今のヤバいね! もう1回できるか?」ってカメラマンが撮ってくれたり、リフト乗ったタイミングで「お前さっきあんなことやってたな!」っていろいろと気さくに話しかけてくれたり、そういうアメリカらしいコミュニケーションの壁が薄いっていうのはすごく自分のフィールと合ってて友達がいっぱいできた(笑)。そんなセッションをムービースターやトップライダーや海外メディアとできるのがHoly Bowlyの凄いところだと思う。
N:参加した人たちにしか感じれないことがあるというか、数日間の限られた開催時間っていうが濃いセッションを生むんだと思う。俺は全然知らない奴に「良いサングラスかけてるね!」って話しかけられたら、Dang Shadesのボスだったみたいで、サングラスくれた(笑)。
たしかにセッションの雰囲気は行った人にしかわからないよね。ところで、日本でもいろいろな地形イベントに関わったり、見てきたと思うけど、その辺りも聞きたいな。
H:たまたま奥只見のディガーをしてたから見ることができたThe Wallが最初の衝撃。完全に繋がってるっていうか、どこの壁に入ってもラインが繋がるようにできていたと思う。行き止まりっていうのがなくて、一筆書きができるようなラインがどこを見てもあった。前にバブルスさんが飲みながらパークの話しをしていて「景色の変わらないスノーボードは寂しいよな」ってつぶやいたのを思い出してそれのひとつの答えなのかなって。こんなパークの概念があるんだって感動した。
Rider: Hikaru Taira Photo: Yuyaphoto
日本は世界的にみても地形イベントを牽引していると感じているけど、Minakami VibesやDream Sessionのコースはどんな印象?
H:Minakami Vibesはデッカいし、速い。もちろん壁やボトムでも遊べるところもいっぱいあるけど、当てたいって思うところに行くにはそれなりのスピードが必要だったり。あと、ノリくんがMCで言う「子供優先」ってローカルルールがあって、今では言わなくてもみんな理解して滑ってる。そんな文化も好き。どの地形イベントもそうだけど、デカい規模のコースになるとオペレーターも掘り手もそれなりの覚悟が必要。1週間の造成の時間があっても完成させるにはかなり魂がないと仕上げることはできないから。一度仕上げたデカい壁も納得できなかったら、最初から彫り直すなんて普通のことだし、重機すら根を上げて停止するトラブルもあったり、「古代遺跡を造った人ってこんな感じかなぁ」なんてことを笑って言いながら彫り続ける。気合いと情熱でみんなが作ってるから念がこもっちゃってるかな。セッション当日にはなにか特殊な“水上・谷川岳”の独特の空気感がMinakami Vibesには出てるように感じる。
N:Dream Sessionは本当にテーマパークって感じで3、4日滑っても全然飽きなかった。スノーボードだけじゃなくて、同じコースでもスノスケや雪板でも遊べるし、遊びかたの幅があるクオリティの高いセクションが用意されてた。作り手も考えていたのかわからんようなラインも生まれたり。デッカくもいけるし、スノスケでもいけるし、滑り手次第でいろんな遊びかたが生まれていたと思う。
作り手のそれぞれの色があるし、ライダーの発想で遊び方の幅が変わるってのも面白いよね。今シーズンから奥利根スノーパークのパークをプロデュースするって聞いたけど、どんな感じなの?
H:じつはこれも某先輩の喝入れで目覚めての動きです(笑)。このエリアの先輩たちはいつも俺たちが行き詰まってたり妥協しそうになったりするのを陰ながら見てくれていて、水上ローカル名物の“バイブスチェック”っていう、“本気出せ”ってパイセン方が喝入れをしてくれる。おかげで自分が本当にやりたいことってなんだ? ってハッとさせられたり。そんな経緯もあって奥利根スノーパーク × Minakami Baseのタッグでパークを造るって理想に漕ぎ着けた。パークレイアウトは地形と自由度の高い奇抜なアイテムを意識したパークを目指してる。
パークはいわゆる地形パークになるのかな?
H:Holy Bowlyで遊んだり、Minakami Vibesで鍛えられたり、Tenjin Banked Slalomを手伝わせてもらったり、The WallやDream Sessionを見たり、自分らはそうゆうパークに憧れて影響を受けてきたから、やっぱり地形を軸にして、遊び方のセオリーがない、自由なパークが目標。オペレーターはもちろんナオトで。
地形パークっていってもいろいろあると思うけど、どんなイメージしてるの?
H:今考えているのはHoly Bowlyみたいな、ドン! って存在感あるオブジェを状況を見て3つから4つ造りたい。ひとつのアイテムでも遊びかたが自由で、パークを滑ることがワクワクするようなやつ。Holy Bowlyでは、1発1発での楽しさってのも学んだから、そうゆう要素も入れたいな。あとは日本でこれまでに学んできた“繋ぎ”も大切にして、いろいろな遊び方で繋いでいけるレイアウト。スノーボーダー、スキーヤー、子供から大人までそれぞれの遊び方ができる地形を取り入れてそれぞれのラインが出せるような、滑り手次第で景色が変わるようなレイアウトにしたいな。
N:そうだね。ラインの繋ぎはもちろん、デカく飛べる所があったり、オシャレに小技ができるテーブルがあったり、滑り手次第でいろいろと遊びが出来るようにしたいね。リップがあって「ここを飛びなさい」ってパークじゃなくて、自分次第で飛べる所がいっぱいあったり、ラインを繋げて遊べる。もちろん飛ばなくても遊べる。特殊なシンボルのようなアイテムのなかにアイデアが生まれる場所があれば楽しいかなって。
常設するのはかなり大変そうだけど、楽しみだね。ディガーやオペレーターとして、こだわっていることは?
N:オペレーターとしてはディガーの手作業がなるべく少なくなるように心掛けるかな。だけどMinakami Vibesのコースはやっぱり人の手が必要になるし時間がないのに無茶なパイセンのお願いをきかなきゃいけなし(笑)。去年のホワイトバレースキー場のMinakami Banked Classicはやたら古い雪上車で、かなりの斜面にバンクというよりハーフボールを4つくらい作らされたし…。頼まれたことは機械の性能と雪質を見て最大限まで作りたい。そんな感じで雪を集めてる以外は前のめりになりながら運転してる(笑)。
H:オペーレーター前のめり(笑)。本当にそうゆう気持ちでやっているオペレーターじゃないと、ディガーが細かいところにこだわれない。というか、本当にやりたい作業に手が回らなくなる。ディガーにはディガーの仕事がもあって、一定のアールを出すキメだったり、美しさを追求した角出しや面出しだったり、うねりや繋ぎの最終調整とか機械じゃ難しい細かい部分はテキトーなテッパ(掘り手)じゃできない、技術が必要な重要な行程だと思ってる。
チームの連携があってこそだね。
N:ライディングということ以外にも、次の世代に伝えて残していかないといけないことがあると思う。そのひとつがライダーの遊び場を創るディガーやオペレーターっていうところだと思う。そういう意味でもこれからもいいパークを作って、技術も含めて、その魅力やカッコ良さを伝えていきたいな。
H:自分たちでゼロからシーズンを通してパークを創るっていうのは初めてのことなんだけど、今までずっとやりたいって思っていたこと。今回、いいチャンス恵まれたから、来年~再来年…って繋がるようにやっていきたいな。まだまだ自分たちが発展途上というか、パーク作りに関してもライダーとしても職人としたら半人前。でも今までに先輩たちの背中を見て学んできたことやいろいろな場所で見てきたことをできる限り落とし込みたい。自分たちの個性を出すパークを育てていくスタートにやっと立たせてもらったって感じです。
1984年11月9日生まれ、沖縄県うるま市出身。群馬県水上エリアにスノーボードショップMinakami Baseを営み、日本でもっともハードコアなキャニオニングツアーのトップガイドを務める。ひと目で誰だかわかるポジティブヴァイブ溢れる滑りとディグ魂で水上エリアを発信するピースメイカー。
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1984年8月1日生まれ、群馬県水上出身。日本最大規模の地形イベントMinakami Vibesをはじめ、水上エリアのフリーライディングイベントをオペレーターとして支えるキーパーソン。イベント本番では、自分で仕上げたリップで誰よりもデカいメソッドを決める粋な男。
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