EPIC SNOWBOARDING MAGAZINE

Kazushige Fujita 藤田一茂

藤田一茂のルーツとマインドに迫る小西隆文によるインタビュー

 世界各地の壮大な山々を舞台に自分の限界に挑戦し続ける藤田一茂。人に流されることなく自身の道を貫く、優等生系異端児。そんな男のロングインタビューをお届けする。

 

Interview by Takafumi Konishi, Cover Photo by Tsutomu Nakata, Photos by Takafumi Konishi, Toshiyuki Kajita, Takuya Tsukada, Kazushige Fujita,

 
藤田一茂 kazushige Fujita

Photo: Takafumi Konishi

 

 日本のスノーボードシーンの間違いなく先の方にいるライダーのひとり、藤田一茂。プロライダーとして、コンテストや映像作品で独自の存在感を放ち、クリエイティブワークまでサラッとこなすシゲだが、これまでに一度もメディアでロングインタビューが行なわれていないのだ。同じHeart Filmsの一員としてここ数年に渡り、アラスカやカナダへと一緒に旅をしている僕が根掘り葉掘り聞いて、シゲの頭の中を覗いてみる。 - 小西隆文

 

小西隆文(以下、K):スノーボードを始めたきっかけは? 京都の北の方出身やんね?
藤田一茂(以下、F):京都府の日本海側の宮津市って所。家から15分のとこるに大江山スキー場っていうのがあって、そこでスキーは小さい頃からしてたんすよ。親がスキー好きで年に数回北海道とか、遠いところまでスキー旅行に行ってた。スノーボードは中学2年のときにレンタルではじめて、友達のお姉ちゃんのBs 180見てスゲー! ってなってハマりました。最初の憧れのスノーボーダーですね。当時は地元の人達が、ワンメイクやボーダークロスやらいろんな大会にも連れていってくれましたね。というか出させられてました(笑)。 

K:籠ったのはいつ頃からなん?
F:高校3年の冬には兵庫県のアップ神鍋スキー場でディガーのバイトをして滑りまくってましたね。それが初の山籠りってやつですかね。その頃にいろんな所に滑りに連れて行ってくれてた人がJWSC出身で、そんな学校もあるんや? って存在を知って行くことにしました。

K:行ってよかったって思う?
F:同世代のライダーに出会えたのが良かったですね。今も一緒に活動してる仲間もたくさんいるし。コーチのノブオ君(大竹延王)とかレオ君(高橋烈男)を倒そうってずっと燃えてましたね。

K:なるほどね、大会でも活躍してたよね。2011年のToyota Big Airでの1080が目に焼き付いてるわ。
F:ノリノリでしたね。でも2009年のThe Slopeのときの方が体はキレてましたね。The Slopeの前年は大会で勝つって決めて、JWSCの夏休みにアクロス重信に1ヶ月籠って、最初はSw/Bs 360がやっとやったのにその1ヶ月で全方向900ができるようになってた。めっちゃ練習しましたね。優勝してなかったらスノーボードやめてたかも。優勝した次の日のフォトセッションでスネの骨を折っちゃったんですけど、折れて無かったら今頃ヤバかったのにな~とか思うけど、まぁそんなもんっすね。

K:Hywodで動くようになったんはそのあと?
F:2009年かな? The Slopeを優勝した辺りっすね。同じショップ(Wakelip’s)でライダーの田中 陽がKJ(岡本圭司)とか紹介してくれて、それがキッカケかな。

K:白馬に拠点を置いてる理由は? Hywodの拠点ってのもあるだろうけど。
F:北アルプスのどーんとした山の感じが好きなんですよ。頑張っても滑りきれないほど山があるな~って。あとは八方にhead cafeっていうカフェがあって、当時headに乗ってたときに3年くらい冬の間だけ居候してたり。head cafeの夫婦が居なかったら白馬にもいなかったかも。白馬のお父さんとお母さんですね。

K:白馬で滑っていて、アラスカやカナダとの違いは感じる?
F:アラスカやカナダは自由やな~って感じ。みんなユルいし、ヤバいやつがヤバいっしょって感じ。あ、そんなところ滑れるんやっていつも見てて思いますね。日本で見てきた山の想像を遥かに超えてくるし、こんな急斜面で上に雪庇あるのに直登するんやな~とかね。あとは自然を大事にする場所と遊び場を分けてる。遊び場ではモービルもOKやったり。
白馬は狭い所にギュッといい山が詰まってて、それが魅力かな。あとは雪。滑りたい斜面は無数にあるけど、アクセスやアウトが険しくてなかなかね。遠くからよだれ垂らして見てる時間も多いっすね。白馬の山々はほぼ滑られてるけど、自分には未開の地ばっかりで、それを自分の力で一歩づつやってくのが白馬でやってることかな~。

 

 

白馬BCのラインと一茂のライフスタイルを垣間見ることができる“Lade Snow – The Light of Life”(’17)

 

 

藤田一茂 kazushige Fujita

Photo: Flo Jäger

 

 

K:海外にもよく撮影に行ってたよね?
F:スイス、オーストリア、アルゼンチン、ニュージーランドくらいかな? 海外の撮影に日本人ひとりで動くって環境が今までは無かったから、それが楽しかったっすね。無線の英語分かんねーってなったりとか、スポンサーを受けてるブランドのプロダクトミーティングも分かったような顔して参加してたり(笑)。頑張ってコミュニケーションとって、いい写真とか撮れたときは嬉しかったすね。スノーボードで分かり合えるって聞いたことあったけど、ほんまやなって実感できたりね。

 

 

藤田一茂 kazushige Fujita

Photo: Takuya Tsukada

 

 

K:Heart Filmsと撮影を始めて感じたことは? 
F:コニタンスゲーって。当時、アクロス重信で見たときは俺の方がジャンプうめーって舐めてたんやけどね(笑)。

カナダのバックカントリーでキッカー作ったときは苦労してたよね。
F:パークで滑る感じでそのままとはいけなかったですね。そういうこととか知らんかったし、一気に世界が広がったすね。こんなデカいフィールドがあって、スノーボードでそんなことできるんやーって。これやんなきゃダメでしょって思って。もし行ってなかったら今頃プロスノーボーダーとして活動はできてなかったかもね。

 

 

Takafumi konishi 小西隆文
Takafumi konishi 小西隆文

Rider: Takafumi konishi Photo: Kazushige Fujita

 

 

Heart Filmsよりオンライン公開された藤田一茂の“10th Anniversary Part”(’16)

 

 

藤田一茂 kazushige Fujita

Photo: Toshiyuki Kajita

 

 

藤田一茂 kazushige Fujita
藤田一茂 kazushige Fujita

Photo: Kazushige Fujita

 

 

K:今はGentemstickのライダーなわけやけど、どういう気持ち?
F:いい人たちと出会えたなーって思ってるかな。今までいたブランドとは真逆というか、自分の力が試されてるというか。付き合う年齢層も変わって、大人な人が多くてそれも気楽ですね。ヤングなやつって言われて、俺が29歳で一番年下か~とか思いながらお酒注いだりね(笑)。正直、自分のスノーボード歴は15年くらいでGentemstick、玉井さん(玉井太郎)のこともあまり理解できてないかもしれないんやけど、みんなと一緒に過ごす時間を作って、これまでに作り上げられてきたものや感性を受け取りたいなって。自分の今までのスノーボードを認めてくれて、好きなようにさせてもらってるし、今まででも一番楽しかった思う冬が過ごせてたかな。もちろん、今まで悪かったって意味じゃないけどね。

K:生意気なくせにオジさんに好かれるよね。
F:自分もオジさんの年齢になってきて、同じレベルで話を聞いてくれたり、意外とガツガツくるやつが好きやなーってことに気がついてきたっすね。ライダーのなかには、メーカーとかに行ったらヘコヘコしてる人もいるじゃないっすか。あれめっちゃ嫌で、俺は絶対あんな風にはならないって思ってたんですよね。メーカーとライダーの間に年齢は関係ないし、遠慮したら負けでしょって。もちろん、相手をちゃんと納得させれるだけのことを結果と行動で示すことが大事だけど。オジさんに舐められないようにしよーって楽しんでる所がいいんかな?

K:滑りは変わった? 先シーズンの滑り見てて、デカいジャンプをラインに入れてくるなーって思ったんやけど、今年はデカく行くぞーみたいな自覚あった?
F:なるべく自分の行けるギリギリを行こうと思ってた。まず斜面を見たら、一番ヤバいラインから見て、これは無理、あれも無理、これなら行けるかもなってやつを選ぶ。綺麗なラインもあるけど、そんな感じで選んでたらそうなってたかな。自分の中ではギリギリやから滑りは荒いし、パッと見でかっこいいって感じじゃないかもしれんけど、その感じが伝わったら嬉しいな~(笑)。

K:いやー、かなり刺激受けたよ。話は変わって、Forestlogってブランドや、ライター活動、キッズキャンプまで、マルチに活動しているライダーやと思うんやけど、そうするのはなんで?
F:滑る以外のスノーボードも好きって気づいたからかな。最初はライダーで映像や写真を残すだけで生活できるのが理想やったけど、時代が時代やし、自分の実力不足ってのもあったりで、滑りだけじゃなくてもいいなって思って。デザインやライターの仕事もスノーボードに関わることをやってるから、ライダー以外の目線でスノーボード業界の人たちのことを理解したり、みんながどんなデザインが好きか? どんな映像を求めてるか? とかも見えてくるし、冬にやってるライディングセッションとか、キングスやスノーヴァ羽島なんかに行ってサンデーボーダーの人たちと滑ってみんなのスノーボード愛を感じたり。いろいろな人と関わることで為になることがいっぱいあるんですよ。おれは完全に遅咲きやし、オリンピック選手やトッププロ以外のイケてるプロライダーの形の参考例みたいになって、若い子が追っかけてくれるようになりたいなって思ってる。

K:写真もめっちゃ撮ってるよね。一眼レフを山に持っていくのって大変でしょ?
F:スノーモービルやバックカントリーを始めて、見る景色が本当に凄くて、形に残したくなったんですよ。ライダーしか行かない場所をいい感じで撮りたいって思ったら、一眼レフでしょってことになったんすよね。ついでにほかのライダーのライディングも撮れたらいいなってのもありましたね。はじめは撮影のときも一眼レフを背負って滑ってたけど、ケイジ君(田島 継二)に滑りに集中してもいいんじゃない? と言われて、封印してる時期もありました。今はモービルの運転や撮影にも余裕ができてたから、小さいカメラを持ったり、ー眼レフも持って山に行ってて、カメラがあればその日の想い出を仲間と振り返れたり、アラスカの景色をみんなに見せられたりできていいですね。カメラ持ったまま攻めた滑りをしてカメラを壊すこともあるけどね。

 

 

藤田一茂 kazushige Fujita

藤田一茂 kazushige Fujita

藤田一茂 kazushige Fujita

藤田一茂 kazushige Fujita

Photo: Kazushige Fujita

 

 

K:今後やりたいことは?
F:世界中の街や山に友達を作りたいな(笑)。これからもいろいろな場所を巡って、そこで出会う人たちと一緒に滑ったり遊んで、その土地を感じたりしたい。世界中に好きなことが同じ友達が居たらいつでも遊びに行けるしね。今やってるスノーボードを続けた先にそんな未来があると思ってる。作りたい映像や本もあるけど、それはもうちょっと先かな。今はいっぱい学んで蓄えて、数年後に全部吐き出すって感じ(笑)。

K:シゲにとって「残すこと」ってなに?
F:自分が好きなことをやり続けて、死ぬときにあいつはイケてるスノーボーダーだったなーって、好きなように生きてたなーって言われるような生き方がしたい。あいつはホンモノやなって。

K:映像や、写真を残すってことじゃなくて、自分の存在を人の記憶の中に残したいってことやな。
F:そうですね。そうする為にはやり続けないとダメなんですよ。

 

 シゲは「俺、スノーボード下手くそやから」とインタビュー中に何度も繰り返していた。謙遜ともとれる言葉だが、そうではない「俺も下手やけど、もっと下手な奴がいっぱいおる」と、得意の毒舌トークの序章でしかない。もしかしたら「そんなことない、シゲは上手いよ」と言って欲しいのかもしれないが、そういうとき僕は「そうやな、へったくそやもんな」と言うことにしている。それでも涼しい顔で話を続けるが、悔しいに違いない。当然シゲも他のトップライダーと同じく負けず嫌いなのだ。

 わざわざ言うことではないのだが、シゲは下手ではない。ただもっと上手いやつを知っている、ということだ。インターナショナルチームでの撮影をこなし、世界のトップライダーと同じアラスカの斜面の上に立ち、そこを滑ることの難しさを知り、映像の中で自由自在に滑るヤツらとの差を実感した。それでも冷静に自分の今の立ち位置を理解し、スノーボードを通じて滑ること以外にも自分の可能性を広げ続けている。ライダーとしてももちろんまだまだ活躍するだろうが、スノーボード業界に新しいムーブメントを起こしてくれるんじゃないかと僕は期待している。   – 小西隆文

 

 

藤田一茂 kazushige Fujita
藤田一茂 / Kazushige Fujita
1988年1月24日生まれ、カメラマン、ライター、映像制作、ロゴデザイン、キッズキャンプの主催者、多彩な顔を合わせ持つ京都出身のプロスノーボーダー。リザルトはJapan Freeride Open 2017 優勝、Nagareha Banked Slalom2017 準優勝、過去には国内最高峰のフリースタイルコンテストのThe Slope 2009 優勝、Toyota Big Air 2011 では日本人最高位5位。映像作品ではHywodで独特の存在感を放ち、Heart Filmsではアラスカやカナダで良質なフッテージを残し続けている。
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Instagram: @forestlogd

 

Takafumi konishi 小西隆文
小西貴文 / Takafumi Konishi
1978年1月30日生まれ、徳島県出身。15年以上に渡り活躍し続ける日本を代表するプロスノーボーダーのひとり。パーク、コンペティション、ストリート、さまざまなフィールドの最前線での活動を経験。2006年より出演しているHeart Filmsでは、熟練のライディングスキルでアラスカやカナダのビッグラインに挑み、毎年進化するライディングフッテージを発表し続けるベテランライダー。
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Instagram: @takafumi.koni4