東北全域に根を張り、これまで10作に及ぶ映像作品を世に送り出してきたBigtime。
SNS上では1分に満たないライディング映像が話題を集めるなか、毎年映像作品を発表し続けているBigtimeが伝えたいメッセージとは?
2017年に公開された松浦広樹と杉本幸士による『Foot Prints』の撮影裏話から撮影にかける想いを紐解く。
Interview by Epic Snowboarding Magazine, Photos by Bigtime, Cover shot rider: Yukihito Sugimoto
Photo: Hiromi Takahashi Location: Iwate BC
松浦広樹 / Hiroki Matsuura
まず東北エリアの山に向き合い続ける理由を聞かせて。 モチベーションはどこからきているの?
単純に東北生まれで東北育ちだから。自分のやりたいスノーボードがそこにあるのと、一緒に動く信頼できる仲間がいること。
ライダー同士で映像だけでなく写真も撮り合うクルーは珍しいと思うけど、最大のメリットとは?
信頼できる仲間と撮影していい物が残らないわけがない。自分たちでなんでもやるし、映像・写真が残らないとライダーとしてなにも始まらない。もちろん専属のフィルマーやカメラマンがいたら最高だけどね。
フィルミング、スチールの撮影をしていて、一番興奮や感動を覚える瞬間はどんなとき?
仲間のいい映像、写真が撮れたとき。これ最高。
撮影のテクニックはどうやって学んできたの?
ひたすらいろんなビデオを見て、アングルや撮り方、色、ピント、動かし方、カメラの操作だったり、Bigtimeで10年ずっと勉強しながら撮影してきたかな。いっぱい怒られたけど(笑)。今もね。
映像作品を作っていくなかで重要な要素とはどんなことだと考えてる?
大事なことは……。映像に対するブレない考え方が必要かな。いい1カットを撮るために何が必要か知ること。
相棒のユッキーくん(杉本幸士)はどんな存在?
先輩として仲間としてスノーボーダーとして全部リスペクト! いつもいい刺激をもらってます。ネコ好きで甘党。
Photo: Hiromi Takahashi Location: Iwate BC
『Foot Prints』の作品のテーマを聞かせて。
東北で動いてきた足跡を残したい。そしてその足跡を辿ってくるヤツが出てきてほしいという思い。
バックカントリーでのジャンプの映像が多いのも特徴だと思うけど、こだわっている点はどこ?
山のジャンプは細かいことにこだわる余裕がないから、自分らしくデカくジャンプをすることかな。でもそういう場所を探すのが一番大変。
ラインやターンのこだわりは?
ターンはスムーズに。スプレーは豪快に。
手を抜いた滑りは必ずダサい映像になっちゃうから
多くのフッテージを残すことは簡単ではないけど、自身のライディングとの向き合い方や意識していることは?
やりたいことをつねにイメージしてる。そして手を抜かない。手を抜いた滑りは必ずダサい映像になっちゃうから。
『Foot Prints』のフッテージのなかで、思い入れ深い映像を3つあげるとすればなに?
オープニングのふたりのゲレンデセッション(00:14)。そして、地元・福島での何気ないクルージング。ゲレンデでの映像は普段の滑りがいい感じに出てると思う。
それから、1月下旬の岩手八幡平でやったジャンプ(06:09)。キッカーを作ったけど風が強くて、ランディングの雪付きも硬いか柔らかいかも確認できないまま、とりあえず1本チェックして、2本目でFs 900。1発で決まってホッとしたよ。
もうひとつは、2月下旬の秋田八幡平でのジャンプ(08:27)かな。アプローチは細くてクイックだし、ランディングはピンポイント。間違えて上に飛んじゃうとガリガリのアイスバーン。前から狙ってたけどコンディションが合わなくて、ようやく来たチャンスで残せたから素直に嬉しかった。
自身のライディングフッテージを通して、伝えていきたいこととは?
これが東北のスノーボード。雪がある場所で自由に遊ぶ。そして東北の可能性を感じてかっこいいライダーがでてきてほしい。
Photo: Hiroki Matsuura Location: Gassan BC
杉本幸士 / Yukihito Sugimoto
東北エリアの山に向き合い続ける情熱はどこからきているの?
東北の可能性を広げたいし、なにより東北が好きだから。地元のいい所を知らずに、ほかの地域がいいなぁとか言うのはダサいでしょ。東北全体で動いている表現者がいないから、東北を知ってもらいたいって気持ちでやっているうちに、知れば知るほど東北の魅力にハマっていったね。
いまのBigtimeは滑り手が撮影をするという形で活動しているけど、そこに行き着いた経緯を聞かせて。
撮影を始めた頃はフィルマーがいたんだけど、みんな生活もあるし毎回撮影に来ることができなくなってしまって。撮影を続けていくためにBigtimeのメンバーに「ビデオを作るにはみんなで撮り合うしかないけど、それでも続けるか?」って聞いたんだよ。そしたらみんな「もちろんやる」ってことになって。それからいまの撮り合うスタイルになったんだよね。
ここは絶対に写真を残したいって思うスポットもあるし、一眼レフで撮影をしてるから、写真の撮影も自然と始まったね。
撮影側の立場の経験をしていくことで感じたことや変わったことはある?
カメラをまわすと相手のことも考えるようになるし、自分の滑りをどう表現するかも、いままで以上に考えるようになった。絆も深まったし、相手を知ることにも繋がっていったから、滑る時間は減るし大変だけど、このやり方で良かったなって思ってる。
相棒のマツくん(松浦広樹)はどんな存在?
とにかくスノーボードに対して真面目。スノーボード以外もか(笑)。丁寧なスノーボードをするよ。お互いのスタイルが違うから、「そう来たかぁ」って毎回驚かされっぱなしだし、頼りになる仲間。メイク率も凄いしね。夜はだいたいビール1杯に締めのアイスを食って寝る。昼間の豪快さはないよ(笑)。
現場ではどのようにカメラを回しているの?
撮影には一眼レフを2台持っていくんだけど、3人での撮影のときは、ひとりは滑って、残りのふたりで映像と写真を撮るって流れがいつのまにかできてたね(笑)。ふたりの撮影のときは、ひとりでムービーと写真と固定でiPhoneなんてこともやってたよ(笑)。
撮影や編集の技術を高めていくために意識していることは?
撮影の技術は、フレームアウトさせない、なるべくブレないようにするくらいかな。それよりも相手の気持ちになってどう撮って欲しいかってところを意識してるね。編集は、テンポと楽曲を意識してるかな。シンプルなムービーが好きだから、アニメーションには興味はなかったね。
Photo: Hiromi Takashi Location: Akita-Hachimantai BC
『Foot Prints』のタイトルに込めた意味を教えて。
テーマは自分たちの足跡、日記のようなモノ。いままで着けてきた足跡は自分の財産。単なる日記かもしれないけど、これから若い奴らが動き回って、東北に足跡をつけてくれっていう意味も込めたタイトル。
フッテージのなかで、思い入れ深いシーンを3つあげるとすればなに?
スミカワのBCでのライン(05:40)なんだけど、何年も前からそこでジャンプを入れたラインを残したいと思ってたんだ。コンディションがなかなか良くならないポイントで、いままでまったく何もやらせてもらえなかったんだけど、ようやくハイシーズンで一番いい条件に当てた。悔しいのは1発でメイクできなかったこと。
ふたつ目は秋田八幡平で2月下旬にやったピロー(07:00)。このエリアはやり尽くした感があったけど、新たに開拓して見つけたスポット。数日前に雨が降ったこともあったし、ピローが固かったらやべーなぁ、なんていろいろ勘ぐったね。撮影トリップの最終日だったし、メイクしたときはホッとした。これでトリップを終われるって(笑)。あと何よりも直登のハイクアップが怖かった(笑)。
3つ目は、岩手八幡平のキッカー(08:20)。ギャップみたいな場所だったから作るのが予想以上に大変で、2時間半くらいかかった。撮影をはじめたのが夕方3時くらいだったかな。かなりタイトでギリギリなラインのアプローチで、スピードも速かった。爆風ってこともあって、毎回アプローチのスピードも違ったり。もう諦めようかと思ったんだけど、博美(高橋)と松浦がプッシュしてくれたおかげで、5本目でメイクできた1カット。あのシーズンで一番気持ちよかったジャンプかな。
Photo: Oni Location: Miyagi-Zao BC
撮影をしていて一番やりがいを感じるのはどんなこと?
こうして作品になることかな。待ってましたみたいな反応してくれる人がいたら嬉しいでしょ。
フッテージを残していくために、意識していることは?
イメージのみ。いろんな山にいって、いろんな雪を滑る。いろんな地形を見て、頭のなかでの流れのイメージ。歩いてるときの雪質を感じて、どれくらいスピードが出るかのイメージ。それが一致すればメイクできる。
ジャンプやライン、ターンのでのこだわりといえば?
抜け! 抜けが良ければすべてよし。ここでこういう絵がほしいってイメージが湧いたら、やりづらい地形だったとしても無理矢理アプローチをつくる。
ラインやターンは、カッコつけないこと。綺麗に滑ろうとか考えないことかな。
映像作品やバンド活動などの音楽での表現、それぞれリンクする点や魅力を教えて。
ひとりではできないモノづくりというところかな。仲間とあーだこーだ言いながらやるモノづくりが好きなんだろうなぁ。みんな同じ方向に向いたときは最高だよ。
スノーボードは自由だってことを伝えられたらいい
映像作品をこれから作りたいスノーボーダーへアドバイスをするとしたら?
とりあえず現場に行く。そして失敗しまくる。そうしないと先は見えないね。若いライダーは、周りとコミュニケーションをとっていくことも大事。
最後に今後のBigtimeの活動や映像作品を通して伝えたいことを聞かせて。
一般のスノーボーダーが楽しめるようなお手伝いをしたいね。イベントとかね。一緒に山に登ったり、ゲレンデで楽しく滑ったりね。あとはライダーになりたい夢をもった若いヤツらの手助けをしたいね。とにかくスノーボードは自由だってことを伝えられたらいいかなぁ。
『Foot Prints(’17)』 A Movie by Bigtime
雪のいい日に仲間と山に上がり、ライディングフッテージを残す。彼らにとってライフワークである撮影にかける想いは、いまもこれからも変わらないだろう。
現在制作中のBigtimeによる次回作も楽しみでならない。
1984年3月生まれ、福島県出身。豪快な滑りで見るものを魅了し続けるオールラウンドスノーボーダー。バックカントリーでのスピンからライン、パークまで場所を問わず魅せるスキルは一級品。
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