EPIC SNOWBOARDING MAGAZINE

darcy bacha 國母和宏

INTERVIEW – 國母和宏 / KAZUHIRO KOKUBO「楽しんでカッコつけてられるやつが本当にカッコいい」

これまでにも最高峰の映像作品で生き様を表現してきた國母和宏。そんなカズが今秋に世界リリースを果たした自身の名を冠したフルレングス作品『Kamikazu』は、世界各地のスノーボーダーたちの脳裏に焼き付く傑作となったに違いない。
もはや説明不要な今作だが、ライダーとしてのみならずムービーディレクターとして取り組んでいることに驚かされたものも少なくはないだろう。究極のマウンテンフリースタイルを追求し、妥協のないこだわりと生き様を貫くカズがどんな思いを込めて撮影に挑んだのか?
スノーボーダーとしてのキャリアのなかでまたひとつ大きなベクトルへ深化を続けるカズにインタビューを敢行。

 

Interview by Epic Snowboarding Magazine, Photos by Darcy Bacha, Andy Wright, Mike Yoshida.
Special Thanks: TransWorld SNOWboarding, Nick Hamilton, Kamikazu Project.

 

 

國母和宏 Kamikazu

Photo: Andy Wright Location: Eagle Pass

 

 

プレミアツアーも終わって作品がリリースされたけど、今はどんな気分?
達成感はあるけど、やっぱりスノーボーダーとムービーっていうのは周りから評価されないといけないから、まだまだ不安かな。自己満足で画を残して、よし、これでOKっていう訳じゃないから。人に魅せるものだし、それが評価されてって感じだから、不安はあるね。

カズでも不安はあるんだね。
うん。やっぱり山に入ってると自分だけの世界になっちゃう。自分とクルーだけになっちゃうから、周りの声もあんまり聞こえなくなるし、入らなくなる。その映像も出すまで周りには見せないから、出してからの人の評価が問題だよね。

まずはKamikazuのプロジェクトが始まった経緯を聞かせて。
17-18シーズンのプロジェクトをドコのクルーとなにをやろうかを探してたけど、ピンとこなくてどうしようかな? っていうときに、TransWorld SNOWboardingから去年のお盆明けくらいにシグネチャームービー作らないか? っていう話がきたんだよね。それからメンツを集めていったって感じかな。

連絡もらったときどうだった?
めちゃくちゃ不安だったね。自分のシグネチャムービーってライダーの色を決定づける1本だと思うから、今まで作ってきた作品とは全然感覚が違ったね。望んでいたことだけど、コケたら俺もそのイメージを背負うことになるから。

ライダーたちを自分のプロジェクトに誘うとき最初に思い浮かんだライダーは誰だったの?
いろいろとリストをあげてたけど、ギギは外せなかったかな。ここ2年間一緒に撮影してて、一緒にやりたいって気持ちが強かった。白川郷で撮影をするってロケーションを決めてからは、日本人ライダーもひとり入れたいなぁって思ってて、日本人で俺が求めるフリースタイルで一緒に山も滑れるってなったら忠くんしかいなくて、お願いしたって感じかな。

白川郷はいつから狙ってたの?
スキーヤーのpatagoniaクルーが斜面をバックに滑ってるのは映像はあるんだけど、でも俺が狙ってる斜面には誰もまだ行ってないから、絶対にそこをスノーボーダーとして1発目に行きたいと思ってて。

白川郷を滑ってなにか感じことはある?
「日本もいいとこるあるな」ってなったね。俺、日本の冬のハイシーズンを北海道以外で撮影するの10年ぶりくらいだからさ。

撮影でとくに印象に残ってることは?
はじめての山だし、シーズン頭から歩いて地形を見ながら撮影して、ハイクで動いた分しか滑れない感じ。めっちゃ辛くて本当にクタクタだった。ピークまで5時間で尾根沿い1時間ハイクって感じで本当に今までの撮影のなかでタフ過ぎるってくらいタフだったね。白川郷に着いてソッコー雨降っちゃったりさ。またそのあとにドカ雪降ってくれて、1回けっこうデカいの雪崩れたり。だけどそういうことろもモチベーションに繋がって、10日間だったけど充実した撮影になった。

 

國母和宏 Kamikazu

Photo: Mike Yoshida Location: Shirakawa

 

 

シーズン中の動きは雪の状況見ながら動いてたの?
だいたいの動くベースは決めてたけど、雪の状況を見ながらどこ行けるかな? っていう。雪に合わせる動きに関しても、今までやってきた周りの仲間がいたから。ジェイク(ブラウベルト)とのヘリトリップはシーズン中までは決まってない話だったんだよね。ジェイクにウィスラーの奥で撮影しようっ誘われて「いいね!」って、行った感じ。俺、アラスカよりもカナダが好きでさ。アラスカはサバイバルなライディングだけど、カナダはトリック入れたりフリースタイルだから。

ラインのなかでトリックを入れてるけど、そのポリシーやこだわりはあったの?
俺のなかではラインでトリックを入れるのが究極だと思ってる。気持ちいいとかキレイなムービーとかじゃなくて、俺がやりたいムービーは単純にヤバいっていうムービーをやりたかった。1発のジャンプ台作って着地するなんていったら、そこら辺のパークキッズでもできるから。誰でもできることじゃなくて、フリースタイルの山でトラックも限られてて、いったらファーストトラックでラインでトリック2発入れてきたら、色褪せない映像だと思ってる。そういうのを狙ってた。それぞれのフッテージでスペシャルなものを残したかったから。

 

國母和宏 Kamikazu

Photo: Andy Wright Location: Eagle Pass

 

 

カズがターンの完成度的なところを意識して滑ることもあるの?
まったくしてないね。ターンはスノーボーディングの流れなんだよね。俺のなかでのターンはアクションを繋ぐなかのひとつだから。ターンだけで見せようっていうのはないね。ターンに何かを加えたりとかはあるけど。クリフドロップからの見た?

うん、イーグルパスのマッシュのシバき方ヤバかったね。狙ってるところがちょっと違うねって。やっぱりマッシュは大好物なの?
あれヤバいでしょ。

ウィンドリップととマッシュはどっちが好き?
マッシュかな。

カズが北海道で生まれ育って滑ってきた地形遊びの究極を象徴してるなって感じたよ。
それが俺のスペシャルなんだと思う。誰にもマネできないところ。コンボとか。俺がただバックカントリーでデッかいチーズエッジ作ってトリックやったところでManboysクルー、Absintheクルーにできるヤツらがいるし。そういうヤツらとはまた違った自分らしい映像を残したいって思ってるから。

ラインチェックのときにどういう風に地形を見てる? どうやって覚えてる?
リスクを考えて無理はしないでヤバいラインを選ぶって感じかな。出口がないところなら、飛んで抜けられるんだったらそれはもっと良くなるから、そのなかでもカッコいいの選ぶって感じ。最後から2カットの、あれは飛んでいかないと出口がなくてさ。スラフでどっちも塞がれるから。

エンダーの2カット前くらいの落ちてるやつね。
そうそう、刻んでくるやつ。誰でも残せるようなフッテージの数がたくさんあるよりも、半分の量になったとしても俺にしか残せないフッテージのほうが俺にとってはプラス。自分のやりようだし、イメージができないのものは絶対できないから、ちゃんと想像できるものをやるって感じかな。どんなにいい斜面でも自分がカッコいいと思うラインが見つからないときはやらない。だったら、そのときは違うスポットを探しに行く。

フッテージを集めるためにとりあえず的なチョイスはないんだね。
そういうフッテージはその映像が出たときに見て後悔するから。だからできるだけほかのライダーと被るような映像になるときは滑らないようにしてる。

さすがのこだわりだね。
そういう映像が世に出るの嫌なんだよね。

妥協できないってことだね。ワンカットのひとつひとつが自分の表現だしね。それをこのレベルで体現している日本人ライダーがいるっていうのは誇らしいね。
そうだね。幸せなことだわ。それでやっていけてることが。

エンダーは狙ってたの?
完全に狙ってた。撮影でエンダーはつねに狙ってる感じだね。

テイクオフする前にどんなイメージしてたの?
あれは怖くないんだよね。テイクオフの場所は難しくないし、スピードと飛ぶ方向さえ間違わなければ死ぬことはない。デカく飛んでトリックか、いいグラブ残したいなと思ってドロップしたよ。

ライディングはもちろん稜線の画はゾクゾクしたよ。
ドロップポイントに向かうまでがめっちゃ怖いんだよね。逆側は岩だからさ。岩を掴みながら板がボロボロになりながらで汗だくだね。本当にギリギリ歩いてたね。

撮影でこだわったところといえば?
今までやってきたイージートリックは全部ノータッチでラインでやろうと思って、Bs 720を叩いたキックでやるっていうのは俺のなかでは頭になかったからさ。キックっていうかチーズエッジのキックっていうのは使わない予定だったんだよね、トリックも全部地形に合わせて叩いたりしたから。Bs 720は全部ナチュラルなんだよ。

『Kamikazu』では出演ライダー、撮影クルー、ロケーション、すべてをディレクターとしても手掛けているけど、どうだった?
17歳くらいからStandaerd Filmsとバックカントリーに入って撮影して、世界のトップのライダーたちと本当にガチなセッションをしてきて、これまでに出会ったライダー、カメラマン、ロケーションを自分なりに埋めたって感じかな。長い間ライダーをやっていると、ライダーの良いときっていうのも分かるようになってくるし、だから今回の撮影メンツで来年に撮っても、もっといい映像ができるかっていったら、それは絶対違うと思う。

 

國母和宏 Kamikazu

Photo: Mike Yoshida Location: Shirakawa

 
フィルマーにジャスティンを選んだのはどんな理由だったの?
ジャスティンは『Stay Badass』(’14)から一緒に撮影をしていて、今年で4シーズン目。俺の好きなロケーションっていうのを全部知っているから、外せないなっていう感じだったかな。自分の意思伝えてカメラマンも撮りたいものが撮れる。カメラマンと理想のコミュニケーションが取れるようになるまでは簡単じゃない。カメラマンとライダーの関係ってすごい大事だから。どんなにヤバいクルーがポンっと集まっても、撮影できるムービーではなかったな。

エディターのジェイミー・デビッドについては?
Burtonの『Standing Sideways』(’12) とかPeace Parkを作ってたやつなんだよね。昔一緒にやってた。『Kamikazu』のメンバーは自分が積み上げてきたものでできた人間関係って感じかな。ライダーたちへのオファーは全部自分で直接送って、お前とはこういうのやりたいからどうだっていう感じで。

これまでに積み上げてきたものが形になったプロジェクトなんだね。
本当にそう。『Kamikazu』に出てくれたライダーたちがみんなそうだから。洸平(工藤)、啓介(吉田)、秀平(佐藤)。それにブレア(ハベニクト)は10年前くらいにStandard Fiilmの撮影で会って、「うわっ。こいつ超イケてるって」思ってて、3年前くらいには一緒にアラスカに行ってたり。今シーズンは、たまたまベイカーに滑りに行ったときに会って、そこで話しをして実現したって感じ。自分以外の誰かにスケジュールを仕切られた訳じゃなくて、俺が直接連絡して、みんながスケジュール合わせて来てくれてって、くらいの感じだったかな。

 

國母和宏 Kamikazu

Photo: Mike Yoshida Location: Shirakawa

 

 

カズのラインのなかで作られてきたものなんだね。撮影オファーをして面白い回答返してきたライダーはいる?
ギギ(ラフ)は超時間かかったね。ギギと忠(布施)くんは先輩なんだよね。世代もうえでそこだけは誘うの超緊張したんだよ。忠くんはいい感じで返事してくれて、ギギは業界のこともいろいろ考えて…。

それはどんな理由なの?
ムービープロダクション、スポンサー、メディアがいままでとは違った形で問題を抱えていて、複雑な思いがあって説得するのが、簡単じゃなかったんだよね。だけど、俺は来たチャンスを掴みたいし、いい映像を残したい。それしか考えてないって言ったんだよね。俺には与えられたチャンスだから、俺はここで作りたいっていうのをめっちゃギギを説得して、折れてくれたのさ。

そんなストーリーがあったんだね。
そこはめっちゃ濃いと思う。

ディレクターとして作品でこだわったところといえば?
普通の撮影プロジェクトだったら自分のパートさえ良ければいい。だけどほかのライダーのカットひとつひとつもそうだし、最初から最後までの曲とか、ムービー1本のすべてに妥協ができなかったところかな。ライディングのカットチョイスは超厳しくいったね。映像でしか見れない、コイツしかできないとか、それぞれのライダーがみんな持ってるものがあったから。苦手なトリックは並みのライダーくらいのフッテージのレベルになるし、そういうの映像は全部カットした。それが一番こだわったところかな。ティーザー負けしてなかった? 自分のムービーは何回見てもわからないじゃん。まぁ自分ってなると感覚が分かんなくなるからさ。

つねにAカットの連続で驚かされたよ。シリアスなスポットを詰めてやっているけど、作品としてはポップに魅せらてるのもスゴいなって。
メンツもだいぶバッチリ決まったし。方向性はバッチリだったな。キーガンとかクソ上手くない? なんか雑なんだけどめっちゃかっこいいよね。

ヤバかったね。カズの板に乗って滑ってるのもアツかったね。
アツいよね。

『Kamikazu』プロジェクトが無事に終わって、今の気分はどう? 次に狙ってることとかあるの? 
いまはとりあえずはないね。なんだろう。ないんだよね。このままガンガン行ってヤベェの作ろうぜっていう感じではなくて、自分が表現したいものはけっこうできたし、まったく未練はなくて、俺がボードをやっている間にやりたかった、シグネチャムービーを実現できていい形で終わったから。これからは、『Kamikazu』を見て必要としてくれるところから自分が求められる限りやり続けようと思ってる。

5年後10年後とかどういうスノーボードしてると思う?
つねに上を目指してスノーボードをゆっくり滑るってことが今までなかったから、ゆっくりしたいね。だけどまだ自分にしかできないこともあると思うから、求められたらやりたいけどね。

自分自身の追及はもちろんだけど、StonpやZetsurinだったり若手をフックアップして動いてるけど、その理由は?
本当にリアルなライダーって表にたくさん出てくるわけでもないし大会に出るわけでもないから、そういうライダーって業界に何人かしか残れない存在だと思うんだよね。お金がそこに集まらないというか。大会のキッズもいっぱいいるし、業界は小さくなってきてるから。自分のスタイルを貫いて実力もあるライダーをもっと引っ張り上げたいと思ってる。もっと出てきてほしいよね。ムービーでとんがって生きてるっていうやつ。

シャウトアウトしたい人はいる?
シャウトアウトしたい人ね…誰なんだろうな、難しいね。自分のキャリアをさかのぼったらね。感謝のシャウトにするか、それとも…。でも本当に言っちゃえばスノーボードで関わってきたすべての人だけど、でもそれじゃちょっとまるいから……。俺は日本人だし、普通の家庭で父ちゃんにスノーボード教えてもらって、この世界のトップまで上り詰めた、誰も言い訳できねぇぞって迷ってるヤツらに言いたい

自分自身で切り拓け。そういうことかな? 最後に、若い世代のスノーボーダーにメッセージをお願い。
楽しみ続けるのは楽じゃないし、カッコつけ続けるのも楽じゃない。でもそれを楽しんでカッコつけてられるやつが本当にカッコいいと思う。本当に楽じゃないのは俺もわかってるから、そこは辛いぞってお勧めはしない。

 

 

Transworld Snowboarding “Kamikazu” – Official Trailer

 

 

 

 

國母和宏 Kamikazu
國母和宏 / Kazuhiro Kokubo
1988年8月16日生まれ。北海道石狩市出身。幼少期よりバックカントリーで培ったスノーボーディングを今もなお追求し、世界のトップまで上り詰めた日本が誇るマウンテンフリーススタイラー。2018年秋にリリースした自身の名を冠するムービー『Kamikazu』はスノーボード史に残る傑作として、世界を席巻。スノーボーディングに向き合う精神は人一倍強く、その行動力とパッションは世界のスノーボードシーンをリードしている。
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