北海道を拠点に映像作品を世に送り出し続けるフィルマー、328。
パウダーを自由に遊び尽くすために生み出されたDeath Labelが誇る名機、“Kintone”はこの男なくして語れない。
現在は利尻島に張り付き、映像作品の制作と滑ることが中心のスノーボード人生を送っている328氏のインタビューをお届け。
Photos by: Loki.
Interview by: Masaki Kitae / Epic Snowboarding Magazine.
「自分のまわりのカッコいいスノーボーダーのことを伝えたかった。北海道のこんなところにこんなヤツがいるんだぜっていう」。25年前にSony VX-1000を手にし、地元・北海道の山々でスノーボードフィルマーとしてのキャリアをスタートさせた328こと、三ツ谷シゲ晴。
『ぶっ飛び命 1 – 5』(’97 – ’01)、『Yokonorizm』(’04)、『Wonder Vision 0 – 3』(’08 – ’11)、『Hokkaidian Snow』(’15)、『On the Tracks 1 – 4』(’16 – ’19)など、これまで多くの作品を世に残し、スノーボードビデオの隆盛期から現在に至るまで、映像での表現活動を続けている。数々の作品のなかでも、パッションとメッセージ性が溢れた秀作『ぶっ飛び命』や『Yokonorizm』はスノーボードシーンに大きくインパクトを残した作品として、多くのスノーボーダーに影響を与えたに違いない。
北海道をはじめとする国内はもちろん、世界各地のシーンに根付く日本発のスノーボードブランド、Death Labelの名機“Kintone”のプロデュースも手掛ける328に、映像作品とボードづくりのバックグラウンドにあるストーリーを聞いた。
現在では見かける機会が少なくなった8mmフィルムやDVテープの数々は328氏の軌跡を物語る
フィルマーとしてライダーを撮るときに大切にしていることはどんなことですか?
俺が撮ることによって本気になってくれるかどうか。だからこっちもそれくらいに思ってもらえるフィルマーじゃないとダメで。大会のファイナルくらいのビンビンの緊張感というか、撮り手も滑り手も「この映像を残せば何かが変わるかもしれない」って思ってるくらいの本気のセッションがしたいんだよね。そうじゃなかったらマスメディアがスノーボードをちゃちゃっと撮ってるのと同じになってしまうでしょ。かっこいいだけじゃなくて、目に見えない部分まで伝えられるようなアツいものが撮りたいよね。
それは撮影をするうえでいちばん理想的な関係ですね。本気でやり合うっていう。
撮ってる側としても、後にも先にもないようなコンディションを当てて、震えるような映像が撮りたい。「俺の葬式でこの映像を流してくれ」って言っちゃうくらいの感じのさ。どのフッテージもすべては人と人というところからのバイブスだったり、撮影時のお互いの高ぶった気持ちが作品になったときに何かが滲んで伝わるんだと思うし。だからそれでうまく撮れなかったときには「切腹!」ぐらいの気持ちになるし(笑)。そうゆう経験もしてるよね。
俺はいい瞬間をハズさないために自分の人生を費やしている
作品にはご自身のライディングも収録されていますが、自らのライディング映像を採用するときの基準みたいなものはあるんですか?
光だね。光の美しさが出ている映像だったり、そういう映像はあとから見返してもヤバいと思えるし、編集していても楽しい。あとは滑ったときの感覚だったり、ガツーンと記憶に残っているメモリアルなランとかは自分のライディングもムービーに使っているね。
山に入っての撮影時に意識していることはどんなところですか?
自然との調和。自然のリズムをできるだけ理解するという姿勢かな。山での撮影っていうのは、いい瞬間に山にいて、その光を当てれるのかっていうのが大事だよね。俺はそのいい瞬間をハズさないために自分の人生を費やしてるフィルマーだから。山での行動における時間の使いかたとか、何時頃に雲が抜けるとか、自分の頭の中にシナリオを描いてから山に入っていくね。
地元・北海道に長年向き合っていますが、どのようなフィールドで撮影しているんですか?
ここ5、6年でいうと、普段はキロロや余市岳周辺を散策してるね。でも山に行っても8割はGoProなどで撮るくらいで、毎回フィルマーとして撮るっていうよりもスノーボーダーでいる感じだね。光が入りそうな好天コンディションであれば、もちろんフィルマーとしてカメラを持ち出す。最近でいえばフミオ(村上史行)とかに声かけたり。ただ、ここ10年くらいは利尻にドップリだね。
もう病気だねっていうくらいに、ドッカーンと利尻にハマっちゃって
利尻に行き着いた理由と経緯を聞かせてください。
自分の人生が変わることになるな、と思いながら行きはじめたね。シーズンの最終テストを受けに行く場所というか。もう病気だねっていうくらいに、ドッカーンと利尻にハマっちゃって。独立峰ではあるけど、一生かかっても滑りきれないくらい無限にポイントがある。ピーク狙うなら6時間くらいのハイクだけど、2~3時間のハイクで滑るラインを2本やる日が多いかな。
利尻の山の特徴を教えて下さい。
スティープで雪の薄いアルパインっていう場所が多いけど、ポイントによって特徴が変わってくる多様な地形がある。上を見上げたときのピークの顔つきもそれぞれ違うしね。ヨーロピアンだったり、中国とかモンゴルみたいだったり違う顔があって。標高1721mにある利尻山のピークが横綱だとしたら、そのまわりに1400mあたりに大関の山が3つあって、そこに小結みたいな山がくっついてる感じさ。東西南北すべての面があるから、風向きや天候で雪付きを予測したり、山を知るには最高な環境。大先生なのさ。
利尻といえばコンディションを当てるのが難しいイメージがあります。
やっぱり難しいね。通い始めた10年前と比べるとうまくリズムを合わせられるようになって、ハズすことも少なくなってきたけど、それでも2割くらいはハズすときあるかなぁ。こんな強風とは思わなかったなとか、面ツルだけどガッチガチに硬いとか、そういったコンディションのときもあって、そういうときはもうピッケル持って滑り降りるくらいの状態さ。風が吹いたときの勢いもものすごいし、標高1000mから1400mあたりの世界になると毎回難しい。輪っかみたいな雲がくっついてきて抜けたり抜けなかったりで。それ以外は今の天気予報だと、ほとんど当てられるようになってきた。
利尻の魅力を言葉にするならば?
宇宙。UFOに乗ったような感じ。景色、自然現象も光も別格です。山のシルエットが超カッコイイから、フェリーで島に近づくときの景色もすごくて。海にそびえる尖った雪山に船で近づいていくっていうのでワクワクしちゃって、鬼ヶ島に向かう桃太郎の気持ちになるんだよね。
自然の世界では人間はわかったようでわかってない。スノーボーダーがやっていることはそういうこと
Death Labelとボード開発をするようになった経緯を聞かせて下さい。
国内で流通していた板に対して、これじゃあ北海道の柔らかい雪には引っかかっちゃうし、足もそんな大きくないんだよな~とか、自分の頭の中ではもっとこうしたらいいなという思いはずっとあって。そんなときに北海道のいろんな場所でザ・デイという日に、Death Labelの大川氏と出くわすようになった。よく一緒に滑るオショウ(江 昌秋 / Death Label)もいたし、2~3年そうやって山でセッションするうちに、リフト上で話が盛り上がって「板を作ろう!」ってなっていって。大川氏とはなにかシンクロする部分があることで話がここまで繋がってきたのかなって思ってる。
そこから生まれたKintoneなんですね。スペックを見ると161cmのわりにはコンタクトレングスが短いですよね。
そう。ショートキャンバーだね。スケボーとか車でいうホイールベースが短いような、よく動く板が欲しかったから。こだわったのはウエスト。日本人の足のサイズに合わせたウエスト幅で操作性の高い板が欲しかった。そうすれば日本人ライダーも外国人勢に負けないようなパフォーマンスを出せるんじゃないかなって、ずっと思っていたのもあって。まずはウエストから決めて、サイドカーブ、ノーズとテール幅を合わせていった感じだね。
Kintoneのモデル名の由来を聞かせて下さい。
それはやっぱりシンプルに、筋斗雲に乗るイメージ。悟空が筋斗雲に乗ってどんだけすごいことをしたと思っていても、それは結局お釈迦様の手のひらのなかでの話だったっていう西遊記のなかのストーリーそのままで。Kintoneに乗ってわかったような感じがしたとしても、しょせん大自然のなかではちっぽけな存在であって、自然の世界では人間はわかったようでわかってない。自分たちみたいなスノーボーダーがやっていることはそういうことだからね。
一本一本にストーリーがあるグラフィックだから、滑っているときもしっかり気持ちを乗っけていける
グラフィックにはアイヌの文様が落とし込まれていますが、コンセプトや手掛けたアーティストについて教えて下さい。
絵を描いてくれているのはOki Dub Ainu Bandのオキさん。これまでもKintoneのグラフィックを手掛けてくれていて、ここ4年はアイヌの伝統的な文様を使ったデザインしてくれていて。2020-21モデルでは“無”っていうテーマをリクエストして、そしたら3Dで宇宙みたいな世界観の絵を仕上げてくれた。オキさんもこの作品でアイヌの新機軸というか、ニュースタイルが出たイメージっていうふうに言っていて。
ミュージシャンのオキさんが絵描きとして活動しているとは知らなかったです。
絵描きとしての活動は力を入れてやっている訳ではないと思うんだけど、俺が板のグラフィックをお願いすると盛り上がって描いてくれるんだよね。自分の描いたものがスノーボードに落とし込まれる喜びを感じてくれていて。初回の板にはオキさんの名前を入れたりしていたんだけど、それもオキさんの方から入れてこないようになって。純粋に作品作りっていう感覚というか。一本一本にストーリーがあるグラフィックだから、滑っているときもしっかり気持ちを乗っけていけるしね。
アイヌの文様には、どのような意味が込められているんですか?
25年前にオキさんに初めて会った頃に、アイヌの文様の意味を聞いたら「これは森に入ったときに災いに遭わないようになるセンサーなんだ。」って言っていて。それはスノーボーダーに持ってこいだと思って。自然との交信ができるような意味合いが込められていて、お守りみたいな感覚だよね。それは俺たちスノーボーダーの求めている感覚にも合ってくるし。それでまたこのアイヌの文様が北海道の雪山に合うのさ。ドロップポイントで真っ白い雪のうえにブッ刺してみると、山の景色とビビビッとシンクロするというか。
頭に描いたイメージを残すために、浮世離れした環境下をひたすら登るのは、雪山に魅せられたスノーボーダーに共通する習性
この世の中に自分のトラックを残したい
長きに渡って滑り続け、創作を続けるモチベーションはどこから来ていますか?
自分の思うようにならない世の中に対して、なにかあがいてる爪痕を残している感じ。メイク・サム・ノイズ。たいしたことじゃないかも知れないけど、なんか声を上げたり音を鳴らしたりして、この世の中に自分のトラックを残したいというモチベーションなのかな。スノーボーダーとしてのフリースタイルマインドだったりとか、年月とともにそうゆう気持ちって弱くなっていきがちだけど、そこは自分のなかで火を絶やさないようにしたい。なにかクリエイトしていないと気持ちも上がっていかないから。滑るのもそうだし、映像や写真、または音楽だったり、クリエイティブになる感覚が横乗りは必要なのかもね。
今後の活動の展望をお聞かせください。
2019-20シーズンはコロナの影響で締めるに締めれなかった。フルレングスの作品リリースの予定はないけど、オンライン配信で新しいことにチャレンジしていきたいなって思っているよ。
最後にスノーボーダーにメッセージやシャウトアウトをお願いします。
とにかく楽しもう。こんなに最高なスノーボーディングだって、いつまでできるかもわからない。Have fun!
Garage Inc.
0475-47-4790
www.garage-j.co.jp
Instagram:@death_label