車内にベッドやソファを設置し、内装をお洒落にカスタムしたバンで放浪生活を送る“バンライフ”というライフスタイルが、アメリカを中心に各地で広がってきている。
その人気の秘訣は、リゾート滞在では味わうことができないシンプルな暮らしと気分の赴くままの生活。そしてなにより、自然と調和したライフスタイルを満喫する優雅な時間を楽しめるからなのではないだろうか?
メロウなオーラを放ちピュアなハートを持つ渡辺大介は、旅に出れば必ずというほど仲間が増える。
そんな大介とダニー・カーンがアメリカの大地を仲間と走り回った1ヶ月。
そんな大介とダニー・カーンがアメリカの大地を仲間と走り回った1ヶ月。
Photos by: Danny Kern. Word By: Daisuke Watanabe.
Edit by: Epic Snowboarding Magazine.
ダニーとの出会いは、2018年3月にTKこと中井敬也くんが、実家でもあるサンドイッチ屋さん(ニセコ・グランビュンデン)に遊びに来たのがきっかけだった。そこにはふたりのアメリカ人が立っていて、そのひとりがダニー・カーンだった。TKが紹介してくれて、たわいもない話をしていると、偶然にも4月にタホでおこなわれるK2のチームシューティングに参加するカメラマンだったのだ。
そのシーズン僕は、北米のスノーリゾートを巡るK2シューティングを終えて、しばらくダニーの自宅に滞在して、購入したばかりというバンをキャンピングカーにカスタム。木を削り出してベットやキッチン、棚や作業台に配線をとおしたり一緒に作業を楽しんだ。
そして、時は流れて2019年、そのキャンピングカーで約1ヶ月の旅がはじまった。
4月10日、サンフランシスコ空港でダニーと合流し、早速向かった先は、サンタクルーズにあるプレジャーポイントビーチ。最初の目的はサーフィンだ。現地に着くと海沿いには老若男女関係なくロングボードを担いだ人が沢山歩いていて、まさにカリフォルニアという感じだ。プレジャーポイントビーチはロングボードの聖地であり、ウェットスーツが初めて誕生した歴史ある場所。現地の仲間たちと合流して早速、パドルアウトしてセッションがはじまった。
サーフィンはスノーボードと違って、自然との距離を近く感じる。水のなかで重力から少し解放されて、身体全体で自然を感じることができる。海にはアザラシや海藻、そして見たこともない生物も沢山いて、とてもワクワクした。なかでも驚いたことは、ハングアウトをしてる仲間のひとりが、ジャック・オニール(サーフィン用のウエットスーツを世界で初めて開発したO’NEILLの創業者)の息子、スティーブン・オニールだったのだ。これは、最高にクレイジーな出来事だった。
初めて経験することは新たな価値観が生まれ、自分を成長させることができる。表現者はつねにこのワクワクする気持ちを忘れてはいけないんだなと、この日僕は思った。一緒にサーフィンした仲間たちも、サーフィンがライフスタイルの中心となり、それを軸にした生活を送っていて、スノーボーダーの僕たちに類似してるんだな。
2日ほどサンタクルーズに滞在した後、北カリフォルニアのレイクタホにバンを走らせた。この年のアメリカは、近年まれにみる大寒波ということもあって、4月だというのに標高700m近くのところでも、雪が家を覆いかぶしていた。まず向かったのはボーリアルスノーリゾート。
Yusuke Toyoma / Daisuke Watanabe Location: Boreal Mountain
昨年に訪れたときに知り合った仲間たちとも再会を果たし、がっぷりと春雪を満喫。雪が多いこともあって昨年に比べてパークのセクションも増えて、まさにスノーパークマウンテンだった。セッションしたメンツは、ティム・エディ、タッカー・アンドリュー、マックス・トクナガ、キーナン・ホスフロス、ブランドン・コカード。ここボーリアルにはソウルボーダーが沢山いる。4日ほどレイクタホに滞在後、今回の旅のメインイベント、マンモスマウンテンで開催するHoly Bowlyへと向かった。
Daisuke Watanabe Location: Mammoth Mountain
Snowboy Productionが世界各地のディガーズと作り上げた地形パラダイスHoly Bowly (’19)
Location: Manmoth Mountain
今回初めて参加となるこのイベント、日本人ライダーを含め世界中から有名ライダーが押し寄せていた。パークは、Holy Bowly史上過去最大の大きさで、自分自身見たことのない規模だった。そこには数え切れないほどのセクションとライダーの数だけ無数のラインがあった。1週間の開催期間で、前半の4日間は招待ライダーのみがコースに入ることができて、残りの3日間は一般解放される地形のパラダイス。パークには沢山のライダーが溢れてかいるなか、ほかスノーボーダーとは違うニオイ放ったスノーボーダーがひとり、目に飛び込んできた。大阪出身の豊間裕介君だ。
Yusuke Toyoma Location: Manmoth Mountain
彼もまた単独でマンモスに乗り込んできていたのだ。裕介君とは日本でも何度かセッションしたこともあり、顔見知り。単独で動いてるということだったのでキャンプに誘って一緒に動くことになった。
マンモスでの宿は、スキー場から小1時間ほどの位置にある、森のなかでキャンプ。キャンプのベースから10分ほど歩くと温泉まであるパーフェクトロケーション。夜には満点の星の下、自然の恵みの天然温泉を気がすむまで堪能した。
Daisuke Watanabe / Yusuke Toyoma Location: Manmoth Mountain
裕介君と僕の滑りの武器は、エッジングコントールだ。滑りのスタイルもどこか共通点を感じる。僕たちはまるで高速ナメクジのようにボウルにいくつものターンを刻み、スラッシュやエアーを当て込んだ。Holy Bowlyには何人ものカメラマンやフィルマーがいて、そんなみんなとハイタッチをするのには、そんなに時間はかからなかった。
Takaya Nakai Location: Manmoth Mountain
Holy Bowlyを後にし、次なる目的地はレイクタホで4月20日におこなわれるGBP Gremlinz Gameへ。タイラー・リンチが中心となって作られた特設D.I.Yパークでとにかくハイな気分で最高なスノーボードを仲間たち楽しむセッションイベントだ。GBPのクルーは、スノーボード、スケートやパーティからナニまで、自由な生きかたを満喫するクールなヤツらだ。
裏山で行われるこのイベントは、パークまでにたどり着く道のりがやや大変で、数百メートルの旧トンネルを通り抜けて向かう。トンネルのなかは真っ暗なうえ、天井からの水滴で何メートルにもなった水面の床はまるで映画の世界。そしてトンネルを抜けるとタイラーとその仲間たちが作り上げたD.I.Yパークが現れた。スケートパークほどの大きさでジブはもちろん、ボウルやヒップも設置されたまさに完璧なセットアップ。パークのサイズ感が絶妙にちょうど良くて、ギャラリーとの距離感も近い。会場にいるライダーたちと同じバイブスで盛り上がることができた。
GBP Gremlinz Gameが終わり、春の陽気な天気に誘われ、ボーリアル、スコーバレーでスプリングシュレッドを楽しんだ。丁度その頃、サンタクルーズにいる仲間から、波が上がるという情報をもらい、1泊2日のサーフトリップに向かった。波を満喫したあとは、Rally 4 Rockerというバンクドスラロームのイベントに参加した。昨年も参加したこのイベントは、ローカルの有名ライダーが事故により亡くなり、その追悼を込めたイベントだ。このイベントには、沢山の有名ライダーも参加していて、集まったお金でスケートパークを作るというなんとも アメリカらしいというか、仲間へのリスペクトを感じるイベントである。会場はレイクタホの北西にあるシュガーボウルの裏側でおこなわれ、会場までの道のりは、ひたすらハイクである。コースは短いが最終バンクの先には、撮影にでも使われそうなスパインが用意されておりライダーはフルスロットルでスパインに向かって行く。昨年のイベントでは3位に入ったが今回は、地形を楽しみすぎた結果、直下っているつもりなのに、全然板が進まなかったのを覚えている。
最高のセッションを満喫して余韻に浸り、とどまることを知らないテンションの僕たちはコンデションが良いスポットを目指し、春のレイクタホの風に吹かれながら車を走らせた。
旅の目的地は、突然決まったりする。雪が良さそうなら山へ、波があるなら海へ。なんだか気持ちが上がらないときは、スケートを持って街へ。車の扉を開ければそこは、僕たちのプレイグランドだ。今回の旅は、4月ということもあり、パウダーには出会えなかったが、そんなことは気にすることでもなかった。だって新雪が降らなくても僕たちの気分が最高なのは変わらないからだ。
2019年の旅もまた新しくいろんなモノを見ることができた。 必要最低限のモノで生活することで自分がより豊かになる。移動中の車内でも自然と会話がハズむ。便利を求める世の中だが、本当に必要なモノは意外と少ないのかもしれない。仲間と過ごし、スノーボードができた時間はまさに“Live in a Dreem”という言葉がピッタリだ。