生まれ育った長野市をベースに、バックカントリーを遊び場として過ごす自然体の表現者、美谷島 豪。
冬は白くなったモコモコの山でスプレーを上げ、夏になれば緑色に染まった山で笑う。そこにいつもいるのは高め合える仲間たち。
そんな彼のホームタウンを訪れ、育った環境からスノーボードライフについて聞いた。
Interview by Epic Snowboarding Magazine, Photos by Harada Gaku, Special Thanks : 241 clothing
スノーボードを始めた頃の話を聞かせて。
父と兄のシンくん(美谷島 慎)が先に始めたんですよ。うちの親父が戸隠で数少ないスノーボーダーを見つけて、「何だあれ?」って。その次の年に買ってもらって22年前に飯綱リゾートで初スノーボード。学校休んでまでスキー場に連れて行って滑らせるとか、大会に遠くまで行くとか、そういう感じじゃなくて普通にサンデーボーダーの家族みたいな感じでした。
ライフスタイルがスノーボードを中心になっていったのは?
高校卒業してからですかね。当時ハーフパイプとかジャンプの練習して、大会でなんとかって気持ちはあんまりなくて。イチローさん(中山一郎)、ジローさん(中山二郎)、シンくん、ナベさん(渡辺尚幸)、アツシさん(五明 淳)がいつも長野のスキー場で滑り回っていて、たまに目撃してた(笑)。けど、その頃みんなが山のなかに入って行っちゃって。ツリーランとかバックカントリーでいかにあの人たちについて行くかっていうことのほうが大事だった。
始めた頃からフリーライディングだったんだね。いつも周りのみんなについて行くって感じだったの?
それについて行くっていうよりも、それがカッコいいと思ってた。ついて行かなきゃ楽しくならないじゃないですか。だからもう、フリーランするしかないと思って、ひとりでもガンガン滑ってました。
自然とバックカントリーに入って行ったんだね。豪くんの思うスタイルってどんなモノ?
高校のときに雑誌をパラパラって見て、「今のタバタさん(田畑将彦)でしょ!」って思ったらやっぱりタバタさんで。パラパラって見ても、一瞬見ただけで、誰だかわかるみたいな。「これがスタイルか!」と思って。“スタイル出てる”、“カッコいい”ってこういうことなんだなって。
スーパーリラックスでナチュラル
好きなライディングスタイルや滑りのこだわりはどんなところ?
自然体、無理しない、ヨガのタンデン意識して滑ってるみたいな平常心、スーパーリラックスでナチュラル。 攻めっ攻めっの写真も、力抜けて滑ってる人の写真も両方好き。最近のマイブームは丸を意識した正円を描くみたいなターン。
Photo: Harada Gaku
ビデオで影響を受けた作品があれば教えて。
海外のも好きなんだけど、やっぱり『Live Naturaly』(Yone Film)の影響が一番デカいかな。近い人に影響に受けた感じですかね。出るのが夢みたいなところがある(笑)。ワンカットいきなり出れたときは、「夢が叶った」じゃないけど。スノーボードを始めて10年くらいたって、映像や写真を残したいとか。それこそ『Live Naturaly』に絶対出たいって思った時期がそういう時期だった。
ホームマウンテンといえばどこなの?
ホームマウンテンっていうと難しいなぁ… 赤倉、杉の原もずっと滑ってますけど、北信の某Rスキー場にしとこうかな(笑)。ここは、ひとりでしばらく滑ってた時期とかもあって、多分最近では一番詳しい。誰も来ない所とかあるしロングのツリーのいいところとか、スティープな所も知ってるから。
長野市近辺の山の魅力とは?
急斜面でドカ雪 (笑)。それぞれ特徴もあるしイージーアクセスなのに、すごい急な危ないところに行ける。妙高も白馬も志賀もあんなヤバいのに、2時間あれば行けちゃう。そういう長野のロケーション、遊び尽くせないなーみたいな。山に囲まれているっていうのもいい魅力だし。山と雪に恵まれた魅力を、毎年確かめている感じ。
よく一緒に滑るライダーといえば?
シンくん、サトシくん(齋藤 哲)。そのふたりが一番多いっすね。やっぱりフットワークの軽さもあるし、狙っているところの共通認識がある。シンくんが行こうって言えばそれは一緒に行きたいって思うし、それはサトシくんも一緒だと思う。シンくんとは仲間、兄弟だけど友達みたいな。たまにすごい兄と弟みたいになるし不思議な感じ。
シンくん、サトシくんをはじめ、241ってどんなチーム?
ちゃんと山と向き合ってる人しかいない。山男で、強くて、ちょっと寡黙で内なるものを秘めてる系の渋い人揃い(笑)。トシタカさん(中村俊啓)とか、サトシくんもそうだし。渋カッコいい(笑)。
昨シーズンもかなり動いていたみたいだけど、どういう動きをしてたの?
シーズン始めはノブさん(大江信行)と、ワシントン州のレブンワースにShark Snowsurfファウンダーのティム・ウェズリーを尋ねに行って。スキー場オープン前のスティーブンスパスの超スティープな斜面で雪板シーズンイン。 それからモンタナまで北上して、モンタナとアイダホの州境にあるルックアウトパスって小さい山だけど全面滑れる独立峰で面白い山をやってた。景色と人が少なそうなのとリフト券の安さに惹かれて決めたんですけど、海側とまた違って、内陸の雪は軽くて最高でした。アイダホ側に泊まったり、モンタナ側に温泉行ったりと、良い経験でした。
羨ましいトリップだね。
そこから3年前にベイカーで知り合ったカメラマンのジャスティン・カイオスを尋ねにベリンハムまでひとり旅。その後は、マウントベイカー行って怒涛の11日間バックカントリーでスプリットボーディングの撮影。
いい撮影はできた?
ベイカーは大当たり。11日いるうち、2日スカっ晴れでつねに最高のフレッシュパウダー。スキー場から見える周りの山のいいポイントへ何度も連れていってもらえて、夢のような日々でした。ローカルに本当に感謝!
濃いシーズンだね。帰国してからも海外クルーと撮影してた?
ワシントン州のベリンハムに移り住んで15年以上経つ、バイロン・バグウェルとジャスティンがSpark R&Dの撮影として来て、「お前が行きたいところでいいからって頼む!」ってことで撮影とアテンドをすることになって。俺でいいんだ? みたいな。完全に信頼してくれて2週間中ずーっと一緒に動いてた。撮影期間はコンディションも良くて、ある山の北斜面は短いかな? って思ってたけど、「急だし最高!! 今までで一番いい!」って言ってくれて。ノースウェストのベテランライダーたちが超喜んでくれたのがとても印象的でしたね。撮影をアテンドすることも初めての経験だし、その2週間は自分にとって本当にデカイことでした。
海外クルーの友達が滑りに来るなら、しっかりと日本の良さを知ってもらいたいし、撮影もバッチリ残さないとね。
やっぱり雪と斜面が良くても撮影的に太陽がないとだったり、純粋に楽しく滑りたいと考えてるだけではいい作品は生まれないっていう、今までと違う考えになって。すげぇ責任感もわくし。撮影も手応えがあったライディングもあったし。ジャスティンは滑りも撮るのもクイック。特に先シーズンは相当撮影しましたね。俺の写真何百枚持ってるの!? ってくらい(笑)。
滑り的な部分だったり、感覚的なところで彼らとシンクロする所はあった?
感覚が近いなとは思えた。
どんな所が?
とてもセーフティ。やっぱり雪崩もクリフもリスキーなベイカーでずっと滑ってるから、クリフとクリフの間の狭いシュートをそーっと降りるとか、そういうセーフティなエッジコントロールができる滑りなんですよね。急斜面得意みたいな(笑)。飛べそうなところを飛び降りるだけが脳じゃないというか。あとは何がクールか? そうじゃないか? 自然に愛と敬意を持っているところだったり、そういう瞬間を感じると、やっぱり感覚が近いなと思う。
今シーズン特に印象に深い撮影といえば?
シーズンで一番雪が良かったのは、2月中旬の根子岳。菅平らしいドライな雪質が40センチ以上積もってて。それがいい感じに沈降して乗っても沈みすぎない、最高のパウダー。アテンドも終わって、そのあとの動きだったから集大成的な良さが出て(笑)。早朝で雪良いし、ロングランだったから。その1本がけっこう攻めつつもコケずに行けた。
新しい経験と気づきだったり、収穫のあったシーズンだったんだね。
最近は昔より縦落としで山を見る。今まで絶対狙ってなかったジャンプラインとか、縦のラインも気にしてこれからは見るだろうし。俺的にはやっとそういう目でクレイジーなライン、攻めるスタートラインに立てた。これがネクストレベルに来たのかな。またより楽しくなってきた。
Photo: Harada Gaku
ライダーとして目指しているところは?
これで辞めちゃうとか、昔はやってたとか俺のなかでない。死ぬまでスノーボードしていたい! 今まで通り楽しいライフワークとしてガンガン滑って、スポンサーやシーンにたっぷり貢献したいと思ってます。
スノーボードやっててよかったと思うのはどんなとき?
電波も届かない山奥に入ったときとか、こんな場所スノーボードしてないと絶対に来れない。ここ、人が立ったことあんの? みたいな場所で遊べること(笑)。そんなところばっかじゃないですか。滑ってるところなんて、絶対に夏山じゃ入れないし、雪山だからディープに遊べてる。ディープな人に会えるのもそうだし。良かったなって思う。パウダーを駆け抜けてる瞬間、森のなかの1匹の動物になったかのような錯覚が忘れられない。
1988年5月5日生まれ。長野県長野市出身。山カルチャーとシティライフが絶妙に絡み合った土地に育ち、父と兄(慎)の影響で幼少期より山に慣れ親しむ。
精力的なシューティング活動だけでなく、2016 – 17シーズンには世界的フリーライディングコンペティション「FWQ Freeride Hakuba 2* 2017」にて4位に入賞。山猫のように柔らかい滑りと人を引き寄せる人間力で、スノーボーディングネットワークを世界に拡大中。