壮大なアルプスの山々に囲まれて育ち、天才的なセンスとスキルでコンテストシーンで活躍後、バックカントリーでのフォトジェニックなライディングで魅せ続けるアーサー・ロンゴ。
ゲレンデの壁を使ったネクストレベルな滑りを発信した“Side Hits Euphoria”も話題のアーサーの頭の中を覗いてみよう。
Interview by Epic Snowboarding Magazine, Photos by Darcy Bacha, Translation by Kenji Kato, Special Thanks : Volcom Japan
Photo: Darcy Bacha
まず、自己紹介をお願い。
フランスアルプスのど真ん中、グレノーブル生まれ。俺がまだ生まれる前に両親がレ・デュー・アルプというスキー場の近くに引っ越したんだけど、そこで育ったよ。
ホームマウンテンのレ・デュー・アルプはどんなところなの?
俺がスノーボードを始めた’90年代、最高の場所だったと思うよ。「Mondial Du Snow」ってイベントが毎年冬の初めに開かれていて、当時インスピレーションを受けていたヤバいライダーが集まって大盛り上がりだったんだよ。夏でもそのスキー場には最高のパークがあって、俺が8歳の頃には7月の1ヵ月間そこに通ってた。みんないろいろ世話してくれて、いつも一緒に滑ってくれた。その頃はスノーボード黄金時代だったんじゃないかな。今でもキッズたちにとってそのスキー場は最高の場所だと思うよ。
レ・デュー・アルプのローカルでカッコいいライダーといえば誰?
父親はカメラマンもしていて、いつもヤバいローカルたちを撮ってたんだ。たまに彼らのセッションを見に行ったりしたこともあったよ。造りたてのヒップを飛んだりして、彼らは本当に印象的だったね。ギヨーム・チャスタノルやフレッド・モラスとか。スノーボードムービーを生で観てる感じだったよ。彼らみたいなプロだけじゃなく、まだ無名のライダーたちもパークで毎日見てたんだ。フランスのスノーボード雑誌やムービーも全部引っくるめて、そんなライダーたちは自分にとって影響を受けたライダーであることは確かだよ。
ライダーとして動くようになったキッカケは? 当時の話を聞かせて。
ギヨーム・チャスタノルが当時Nitroチームにいて、俺が8歳のときにチームに招いてくれた。その数年後、11歳のときに初めてドイツで開かれていたNitroのサマーキャンプに参加したんだ。世界中からライダーたちが集まってて、マジでクレイジーだった。クラッター兄弟やルーカス・ホフマン、シン・カンポス、エーロ・エッタラ、ほかにも最高のライダーたちで埋め尽くされていて、ちょっと圧倒されちゃったよ。Nitro時代は「影響を受けた」なんて言葉より、俺の「世界」そのものだったって言える。当時はパイプの大会も回ってたから、マシュー・クレペルやシルヴァイン・ボーボウソン、トリスタン・ピコットなどのパイプライダーも好きだったな。当時はスノーボードマガジンを読みあさって、ローカルショップで見つけたビデオをすり切れるまで見ていたよ。

Side Hits Euphoria
“Side Hits Euphoria”について教えて。こだわりやコンセプトはある?
ちょっとしたこだわりはあるよ。ラインが多くなきゃダメだし、追い撮りで、しかもロケーションは馴染みのある場所。面白いことに、サイドヒットってのはどこかへ移動している最中に必ず見つけるんだ。「これ滑ったらヤバいだろうなー」なんて思う場所でも、今までなんとなく通り過ぎてたんだ。そんなスポットにフォーカスして撮影するのがコンセプトだよ。
あれはキックを付けてる場所もあるよね? それともナチュラルであの地形なの?
そのままの地形を活かして遊びたかったから、なるべく手を入れなかったよ。ほとんどのヒットはリップを少し整える程度で十分だったかな。実際にシェイプするってよりも、ボードを使ってちょっと削る程度でよかったんだ。
いい地形のスキー場なんだね。スキー場でのライン取りや、ヒットの見つけ方のヒントを教えて。
スピードが必要ない初心者用のゲレンデがいいよね。スティープ過ぎる場所だと流れが掴みにくい。しっかりとラインを繋げられる場所を見つけるのが大事だと思うよ。ひとつのヒットが次のヒットへと自然に繋がっていく場所がベストだね。トランジションが短い場所はとくに面白いかな。小さい壁とかポコジャンでも十分遊べるからね。

Side Hits Euphoria 2
アーサーは大会もバックカントリーもやっているイメージがあるけど、特に突き詰めていきたいフィールドとかあるの?
いろんなライディングをミックスさせるのが好きなんだ。もちろんパウダーの気持ち良さはほかとは比べ物にならないけど、そればっかりを追い求めてたら結局ストレスが溜まっちゃうと思うんだ。カナダで最高のパウダーを滑りまくってたけど、移動やスノーモービル、雪崩のリスクを考えるとラクなもんじゃないよね。だからこそ、ゲレンデをリフトで回して滑ることも楽しくなってきたんだ。今はコンテストで勝つ為だけのライディングにはもう興味がないんだよ。それだけはハッキリしてる。バックカントリーでもっと経験を積んでいきたいね。
最近のコンテストシーンについてはどう思う? 自分が出たいなと思うコンテストはある?
コンテストには変化がなくなったよね。ライディングはつねに進化してても、ひとつの方向しか向いていない。クレイジーなトリックを完璧にメイクするため、ライダーたちは完璧なパイプやキッカーを必要とする。スピンの回転数だけに捕われなければ、ヒップやトランスファー、ラインチョイス、イマジネーションを広げられる分野は山ほどあるのに。スロープスタイルのスタートや競技中にサイドスリップするのは見てて残念だな。トリックをメイクするための最適スピードを狙っているのはわかるけど、スノーボードってサイドスリップよりももっと楽しいものだからね。それでも、コンテストのレベルは驚くほど進化している。嫌味を言うつもりはないし、コンテストに出ているライダーや運営してるスタッフをリスペクトしてるよ。でももしまた自分がコンテストに出場するとしたら、違ったアプローチで挑むんじゃないかな。
パウダーライディングの気持ちいいツボは自分で見つけるもの
パラグライダーをやっているって話を聞いたんだけど、冬に滑る山を飛んだりするの?
そうだね。昔飛び方を習ったんだけど、最近またハマり出したんだ。スノーボーディングに似た所があるんだよ。飛ぶ日のコンディションを選んだり、自分でラインをピックしたり、羽の下に吊るされて飛ぶ感覚はすごく特別なんだ。スノーボーディングに直接結びつけることはできないけど、山の地形を空から眺めて、アイデアを膨らませるのには最高の手段だと思うよ。
フリーライディングに役立ちそうだね。パウダーラインを気持ちよくメイクするためのコツってあったりする?
いいボードを見つけること以外、答えはあまりないかな。パウダーライディングの気持ちいいツボは自分で見つけるものだと思うから。スピードを殺さず、リズムよく、なるべくナチュラルな感覚を大事にしながら滑っているよ。
初めてアラスカに行ったときはどんな感じだった? うまくいった? それとも難しかった?
初めてのアラスカはパーフェクトだったよ。ギギとのセッションで、トリップ初日からコンディションは最高。いつもよりもデカいスケールでのライディングだったけど、雪のコンディションが安定してることがわかっていたから、安心して最高のライディングができたね。ギリギリの稜線をドロップしたり、入り口を見つけるまで危ないフェイスをトラバースしたり、結構ヤバい瞬間はあったけどね。スラフへの対処も初めてだったんだけど、もっと慎重に滑らなきゃいけないって気づかされたよ。
Photo: Darcy Bacha
撮影に取り組むにあたって心がけている方法ってある?
昔はトリックだけに集中していたけど、最近はスポット選びこそが大事だって気がついたんだ。トリックをメイクする目的の為だけにバックカントリーで“パークジャンプ”を造ることはしたくないからね。むしろトリックのオプションが少ないような自然地形に惹かれるかな。クレイジーなトリックをキメたくても、その気持ちを抑えないといけないような場所が多いね。
撮影でドロップする前に考えることや、自分に言い聞かせることってある?
いろいろと計算しなきゃいけない場面だったら、そのスポットを色んな角度から観察してみるかな。一度ドロップインすれば、危ない場所はなるべく早く抜けるようにしてる。たまにフィルマーの準備が遅れて、自分のタイミングでドロップできないから、そのときは結構不安になるかな。ここをどう滑るか、そう自分に言い聞かせるようにしてる。
使用するハードギアに対するなにか特別なこだわりってある?
以前は着れるものがあるだけでハッピーだったけど、今シーズンはメチャクチャ寒くて、テクニカルなギアがどれだけ凄いか実感したな。だからVolcomからサポートされて本当にラッキーだったよ。
お気に入りのVolcomプロダクトは?
選ぶのは難しいなぁ。ストリートでも山でも、昔からVolcomのデザインが大好きなんだ。超クールな服がいつも送られてくるけど、いつの間にか俺の部屋から消えていることが多かったよ。友達連中がクローゼットに忍び込んでパクってたらしい(笑)。黒いレザージャケットがお気に入りで、ある日パーティで盗まれたんだ。だから同じジャケットをオーダーしたんだけど、それも2週間足らずでなくなった。お気に入りの服はいつもそうなる。今年はTDSジャケットを手に入れたんだけど、絶対に誰にも渡さないって決めてるんだ。このジャケットは最高だよ。
リアルだけを追い求めればいい
アーサーにとって「残すこと」とは?
シーズンを通してひとつのプロジェクトに集中するなら、その考えは必要ないかな。1シーズンあれば十分いい物は残せる。もちろん、コンディション的に逃したくない良い日も山ほどある。毎日それは変化するし、満足できない日々が続いたと思ったら、突然調子が出てくることもある。ルールなんて基本的にないんだよ。
アーサーと同じ世界の舞台で活躍するスノーボーダーになりたいと思ってる子たちに何かメッセージやアドバイスを。
パッションがすべてだってことかな。もし今何かアツくなれることがあるなら、そしてスノーボードを最高に楽しんでるなら、周りを気にする必要は全くないんだよ。リアルだけを追い求めればいい。プロスノーボーダーになりたいなんて一度も思ったことがないんだけど、誰よりもスノーボードが好きだから今こうしてプロになったんだと思うよ。

Photo: Darcy Bacha
アーサー・ロンゴ / Arthur Longo
1988年7月、フランス・グレノーブル生まれ。スキーインストラクターの父親の影響で幼少の頃よりスキーで山遊びを開始。初めてスノーボードにストラップインした日以来、横向きでのライディングにドハマり。Burton U.S. Openや、オリンピックといったハーフパイプの大会で活躍後、表現の舞台をバックカントリーへ。流れるようにスムースな動きとライン取り、独創的なスタイルで魅せるエアーが持ち味のオールラウンダー。
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